ビジネス

2020.10.25

県民衛星という挑戦。「日本一社長が多い県」福井が宇宙を目指す理由

Getty Images


あるとき、進藤氏は、超小型人工衛星の開発製造を手がける東京都内の企業「アクセルスペース」が数億円で人工衛星を製造していることを知る。

これならビジネスにできるかもしれないと思い立ち、県内外の企業や県に働きかけた。そして、福井県民衛星技術研究組合が立ち上がり、プロジェクトの体制が徐々に築かれていったのである。

県民のためのリアルタイム衛星データ


「県民衛星」であるため、まずは「県民のために衛星データを利活用すること」が第一優先にされた。人工衛星を県独自で開発し、打ち上げることができたあかつきには、その衛星データを使用して県内の土木や森林保全などに役立てることも考えられている。

しかし、Google Earthなどでも知られるように、国や公共機関の人工衛星から撮られた衛星写真は、すでに広い分野で利用されている。にもかかわらず、わざわざ県独自に人工衛星を打ち上げ、その衛星データを使用するメリットとは何なのか。

null
Getty Images

実は、従来の衛星写真は、特定の地域や場所については数カ月に一度程度、もしくは3〜5年に一度程度しか更新がされない。一方、県民衛星は2週間に一度は必ず福井県の上空を通過するため、これまでよりもリアルタイムの情報が手に入る。

リアルタイム情報さえあれば、例えば「先々週と今週での地形の変化」を察知することができれば、土砂崩れの兆候がある場所にいち早く気づき、対策を講じることができるようになる。

さらに将来的には、衛星データ活用を他県へ売り込んだり、超小型人工衛星の量産体制を構築したり、宇宙産業を担う人材の育成、新たな顧客の開拓など、さまざまなアプローチで宇宙産業拠点化を目指していく方針だ。

「日本一社長が多い」を活かす


とはいえ、多くの地方自治体にとってそうであるように、福井県にとっても宇宙産業は未知の領域。そのため、試験設備の整備や、協力してくれる県内企業への呼びかけ、エンジニアのトレーニング、利活用方策の設定など、すべてがゼロからのスタートだった。

福井県は、日本で一番「社長」の多い県でもあり、これは裏を返せば「小さな会社がたくさんある」ということになる。実際に、繊維や眼鏡を中心に、部材や部品などを作ることに非常に長けている会社が多い。

null
Getty Images

その技術を活かせば、宇宙産業に関わっていけるのではと考えた。そして、県内企業の中から選抜された40人前後の技術者たちが「特別講義」で指導を仰いだのが、小型衛星研究の第一人者である東京大学の中須賀真一教授だった。
次ページ > 中須賀教授が驚いた、県内技術者たちの成果

文=長谷川 寧々 編集=石井 節子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事