「副業」という言葉が可能性を阻んでいる
企業側にとっては採用や人材活用の面で刺激になり、エンジニア側にとっては大企業が保有するデータという『宝の山』を扱える。DXはお互いが良い影響を与え合うことで、活性化していく分野といえるだろう。しかし、石戸によると「副業」という言葉が持つイメージが、その相乗効果の大きな壁となっているという。
「『副業』というキーワードに根付く、本業ではない、お小遣い稼ぎの仕事といったネガティブな印象に、企業側も働き手も縛られてしまうことが多いように感じます。特に終身雇用の就業規程が長く続いてきた企業になるほど、受け入れがたい雰囲気も強くなる」(石戸)
石戸は、複数の企業やプロジェクトを掛け持ちすることが多いエンジニアは、副業ではなく「マルチ・ワーク・スペシャリスト」と呼ぶことを提案する。呼び方が変わるだけで、企業や働き手自身、そして社会全体がこの働き方を受け入れやすくなるのではないかと。
今後日本は、およそ200万人分の労働人口をテクノロジーによる自動化でまかなわなければならない。それを実現するにはDXは必須であり、エンジニアの需要はさらに高まるだろう。鈴木は、優秀な人材を社会全体で共有し、適材適所で活躍できるような仕組み作りの重要性を訴える。
overflow代表取締役CEOの鈴木裕斗
「1人の優秀なDX人材を1つの会社が独占してしまうと、日本全体の生産性が下がってしまう。しかし、逆に優秀な人材が、さまざまな企業やプロジェクトに少しずつでも関わることができれば、全体の生産性は伸びると考えています。そんな社会を実現するべくオファーズを運営しているのですが、その働き方を形容する言葉が現状『副業』しかない」(鈴木)
鈴木がCEOを務めるoverflowも、副業・複業経営を実施してきた。現在、同社のサービスの運営・開発に携わるメンバーは270人以上にのぼるが、そのうち正社員は10人のみだ。その正社員たちも最初は週に1〜2度の勤務から、徐々にフルコミットメントに変わっていったという。
「これからの働き方には、『グラデーション』があるべきだと思っています。正社員として特定の企業にフルコミットするだけでなく、働き手がそれぞれの目的や事情に合わせて自分の労働力を分配していく。その分け方のアルゴリズムこそが『価値観』になっていくのではないでしょうか」(鈴木)
報酬やキャリア形成、事業への興味など、働く理由や目的は人それぞれだ。そんな多様な価値観にもとづき働き手がパフォーマンスを発揮することで、企業や社会が成長していくことが今後求められるだろうと鈴木は話す。
人々の働き方の多様性に対して、企業側が変化を求められている中、働き手に求められるマインドセットはどのようなものなのか。鈴木は、どのような職種でも「事業理解能力」と「自己認識」が大切だと言う。
「その会社の事業に対して自分はどう貢献できるか、ということが分かれば働き方の選択肢や可能性は広がると思います。こういった考え方はエンジニアに限らず全ての職種に当てはまるのではないでしょうか。自分が求める働く環境を、自分自身で切り開いていくことが大事になると思います」