ただ、現在の慈善事業の運用方法には批判も多い。寄付者には巨額の減税措置が行われているにもかかわらず、米国の慈善団体の総資金約4兆ドルはほとんど動かされていない。今日の問題に取り組むことなく、永遠に明日の問題がやってくるのを待っているのだ。
法律上、慈善団体は毎年、少なくとも資産の5%を事業に使わねばならない。ところが、大半の慈善団体にとって、この5%という下限は上限にもなっている。一方、73万件ある流行りの寄付者助言基金(donor-advised fund:寄付者の意向を反映した助成先に寄付を分配する基金)では、最低支出額などが一切求められないにもかかわらず、同様の減税措置が手に入る。
いま、慈善家たちはこのタイミングを利用し、慈善事業のあり方を変革しようとしている。透明性および「生きている間に寄付をする」という考え方に重きを置こうとしているのだ。
例えばツイッターとスクエアの創業者、43歳のジャック・ドーシーは4月末、コロナ禍に対する10億ドルの寄付を約束した。5月には275人を超える慈善家および専門家のグループが、慈善団体と寄付者助言基金の最低支出額を、今後3年間は資産額の10%(現在の倍)とするよう正式に連邦議会に求めた。実現すれば、年間にさらなる約2000億ドルが慈善事業に使われることになる。
私たちは転換点にいる。経済の混乱は、周縁の思想を勢いづかせる。大恐慌時代には、共産主義も、孤立主義も、移民排斥主義も急激に台頭した。しかし大恐慌から10年後、米国の企業は世界もうらやむ成功を収め、米国の労働者たちは両親や祖父母には想像もできなかったであろう高い生活水準を手に入れた。
そして私たちはいままた、同じ岐路に立っているのだ。「グレーター資本主義」へ向かうのか、社会の不安定化が続くのか。「どのような種類であれ、革命が起こるでしょう」とダリオは言う。
「悪しき革命になるかもしれません。しかし、皆が手を携え考え抜いた革命にすることも、きっとできるはずです」
ランドール・レーン◎米「Forbes」チーフ・コンテンツ・オフィサー。出版系スタートアップの共同創業者としての経験ももつ。