オリンピック・パラリンピックの延期開催に経済効果は期待できない|野村総合研究所・三﨑 冨査雄


ところが、立ち止まって考えたいのは、コロナ禍により様々な制約があるなかで開催されるオリンピック・パラリンピックには大した経済効果は期待できないこと、そして、オリンピック・パラリンピックに関わる経済効果は相当程度すでに出てしまっていること、である。

東京都が2017年4月に算出した東京オリンピック・パラリンピックの経済波及効果32兆円の内訳をみると、2兆円の直接的効果のうち、家計消費支出(2910億円)は確かにオリンピック・パラリンピックを開催することではじめて期待できる経済効果であろうが、大会参加者・観戦者の消費支出(2079億円)は規模を縮小した大会では当初予定したほどの効果を期待できない。

また、施設整備費(3500億円)はすでに支出済みだし、大会運営費(1兆600億円)や国際映像制作・伝送費(335億円)、企業マーケティング活動費(366億円)も大半とまでは言わなくともこれまでに相当な割合が支出済みであることから、これから先、大会を開催しようがしまいが、経済効果の多くはすでに発現済みと言えよう。

さらに言えば、12.2兆円とされるレガシー効果についても、うち9.2兆円を占める「経済の活性化・最先端技術の活用」が典型例だが、「観光需要の拡大」や「国際ビジネス拠点の形成」など、オリンピック・パラリンピックを機に訪日した外国人を通して拡大が期待される割合が大きく、観客や関係者が世界中から大勢やって来ることを期待できない大会を開催しても、残念ながらさほどの効果は期待できない。

図表3 東京オリンピック・パラリンピックの需要増加額


1. 直接的効果(2兆円)の内訳(単位:億円)



2. レガシー効果(12.2兆円)の内訳(単位:億円)


注)上記の需要増加額(14.2兆円)に間接波及効果を加えた経済波及効果(生産誘発額)を、全国で32兆円と試算している。
出所)「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」(平成29年4月、東京都オリンピック・パラリンピック準備局)

そう考えると、多くの日本人が「経済効果を期待して」延期開催を支持している2021年夏のオリンピック・パラリンピックは、実のところ、開催根拠が弱いと言わざるを得ないのではないだろうか。

むしろ、経済効果以外に、2021年夏のオリンピック・パラリンピックを開催する大義を国民、とりわけ東京都民に示し、理解を得る必要がある。その経済効果以外の大義の候補としては、日本が東日本大震災からの復活を遂げつつあるだけでなく、世界がコロナ禍を克服したというメッセージを東京発で世界に発信することと、コロナ禍に併せて実現するコンパクトな大会をレガシーとして後世の開催都市に残すこと、であろう。

そういった世界や人類にとっての価値を、日本・東京が中心となってつくり上げていくことに国民・都民が共感し支持してもらえることこそが、我が国におけるオリンピズムの浸透・定着であると言えるのではないだろうか。



三﨑 冨査雄◎株式会社野村総合研究所コンサルティング事業本部パートナー。1992年に入社し、社会産業コンサルティング部、公共経営戦略コンサルティング部を経て現職。主にサービス産業(スポーツや観光、医療等を含む)に関わる政策立案や事業化支援、教育や人材育成に関わるコンサルテーションを専門とし、実行支援型プロジェクトのマネジメントを数多く担当。日本オリンピック委員会マーケティング委員や、第3回日本サービス大賞選考専門委員会主査などを務める。

「笹川スポーツ財団」連載:スポーツ×ソーシャルイノベーションで切り拓く未来

文=三﨑 冨査雄(野村総合研究所)

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