開催か、中止か──。
どのような決断が下されるにしても、一つでも多くの何かを遺すため、あえて開催の是非自体を直接的に問うのではなく、「開催ならば、どんな東京オリ・パラにするべきか」をともに考えることにした。
オリンピック教育研究の第一人者であり、筑波大学つくば国際スポーツアカデミー(TIAS)の長として次世代の国際スポーツ界を担う人材育成に取り組んできた、筑波大学の真田久教授に訊いた。
世界中で再びコロナ禍が拡大している状況下で、こういう大きなスポーツイベントを行うことに消極的になるのは理解できます。しかしながら、私は逆にこういう時だからこそやはりオリンピック・パラリンピックは開催したほうが良いのではと考えています。
現在人々が分断されており、なかなか会うことができない、国を超える移動もできない。非常につらい状況の中でみんなが心を一つに明日の社会を作り出していこうと団結することが重要です。
まずは、「アスリート達の健康と安全の確保」と「観客の健康と安全をどう確保するか」。これが開催に欠かせない課題だと思います。
アスリートについては導線を確立し、必要な検査などを正確に行えば恐らく大丈夫でしょう。観客については、どのくらい会場に入れられるか。それに応じて海外から受け入れる観客の規模も検討していかなくてはいけません。最悪の場合、海外からの観客を大きく制限しなければならないかもしれません。
世界に発信すべきメッセージとその伝え方
競技を臨場感溢れるように、どう映像化して、世界に発信するかも重要なポイントです。東京2020大会は、従来とは違った、新しい形のオリンピック・パラリンピックとして世界に発信しなければなりません。
オリンピック・パラリンピックのそもそもの価値である「連帯」や「協調」などが、今ほど大事になる時はないでしょう。こうした世界的なパンデミックの中、準備してきたアスリート、そして観客も含め、困難な1年間をどう過ごし、集まってきたのかをしっかりと示すこと。アスリートが苦しい状況でトレーニングをして、自身のパフォーマンスを最大限に発揮していく姿を、リアルな、あるいは臨場感を持たせた映像で伝えることが今回は特に重要です。
つまり、これまでのアスリートたちが世界一のパフォーマンスを競うことから、競い合うだけではなく、準備を通してどのように困難を分かち合い、乗り越えてきたのかというストーリーを発信する。まさに東京2020大会のモットーである「United by Emotion(感動で一つになろう)」を実現することになります。
そのためには、メディアが重要です。メディアが東京に集まってくるアスリートをどのように描ききれるか。そして、この題材を学校教育や各自治体で行われているホストタウンなどの交流の場で取り上げて扱っていくことで、スポーツの意義やオリンピックの価値が広く伝わっていくと思います。