ビジネス

2020.09.30 17:30

特許切れの技術が次々と用途を生む「魔法の歯車」になれた理由


もうひとつ、有望な分野として期待されているのが「航空宇宙」だ。すでに打ち上げられたNASAの火星探査用ローバーには、ハーモニックの減速機が1台あたり19個使われている。

「宇宙開発は重さが1g違うだけで燃料費が大きく変わる世界です。その点、小型で軽量な我が社の製品は有利。いま宇宙を飛び交っている個数では、とても商売になりませんが、いずれ宇宙がビジネスの場になる時代がくるでしょう」

用途のない時期に技術を磨く


産業用ロボットから医療・宇宙まで、波動歯車装置は大きな可能性を秘めている。そこで湧いてくるのが、成長が見込める部品なのに、なぜ1強状態が続いているのかという疑問だ。

技術を知財で守っているという見方は間違いだ。ハーモニックドライブの基本特許は、1955年にアメリカの発明家、C.W.マッサーが出願した。ハーモニックの前身である長谷川歯車が、マッサーの発明を実用化したUSM社と技術提携。70年に両社の共同出資で、ハーモニックが誕生した。実は、ほどなく基本特許は切れ他社が機構をまねすることは可能だった。

それでも他社の参入がなかった理由について、長井は「昔は単純に用途がなかった」と明かす。

「我が社の製品は、世の中でイノベーションが起きて新しい用途が生まれるたびに伸びてきました。最初の波は70年代に油圧式の工作機が電動に変わったとき、その後ロボットも電動化し、さらに90年代の半導体製造装置、00年代の液晶パネル製造装置と普及が進みました。裏を返せば、それまではニッチだったということ。大手が本気で設備投資して参入する規模ではなかったのです」

しかし、用途のない時期に技術を磨いたことが、のちに決定的な差になった。

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ながい・あきら◎1948年生まれ。一橋大学経済学部卒業。三井物産を経て2002年、ハーモニック・ドライブ・システムズ入社。03年から執行役員、13年6月より現職。趣味のアメリカンフットボールでは母校や他大学のコーチ・監督を歴任。

文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

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