会場の休憩時間に、オンラインでは、左手だけで弾くピアニスト・舘野泉さんのインタビュー録画が流れました。コロナの影響で演奏会がなくなっている現状を報告しながらも、取材でお会いした時と変わらない、前向きな語りでした。全部で2時間半ほど。当日中、時間をずらして見られる追っかけ配信もありました。
こうしたやり方であれば、世界中で視聴できます。手ごろな値段でもあり、チケット購入のハードルが下がると思いました。会場に足を運ぶのは、とてもワクワクすることですが、遠方に住んでいたり、子育てや仕事で出かけらなかったりする人にとっては、新しい選択肢になります。
「S・A・B・リビングルーム券」の選択肢
ジャパン・アーツの大沼千秋さんに、ライブビューイングを始めたいきさつをこう語ります。
「10年ぐらい前から考えていたのですが、当時、配信はほとんどありませんでした。演奏会を主催し、来場していただくビジネスをしてきて、インターネットの普及に伴い、動画で見るのが普通になるのではという予感はありました。一方で、アーティストの印税をどうするのかなど課題があり、踏み切れませんでした」
コンサートの案内にある、「S・A・B・リビングルーム券」という記述については、「今回はリビングで、次はSで、という選択肢があったらいいなと思っていました。高齢のお客さんも多く、子育て中で演奏会に行きにくい、夜間外出を控えたい、入院しているといった方もいますので……」と大沼さん。
「今年3月、演奏会が自粛になり、『今、やるしかない』と決意しました。それから準備を始め、8月の演奏会は、やっとのことで配信を始めることができました」
バイオリニスト・千住真理子さんの「シャコンヌ」(c)三浦興一
カメラ配置・音響が肝心
時間があまりない中で、演奏会の質を保つために、クリアすべきこともありました。
「クラシック演奏会の撮影は、カメラをどう配置するかが大事です。音楽をわかっている人が、カメラワークをできるか。例えば、オーケストラなら、カメラマンも楽譜が読めないと、次に弾く人の位置にカメラを持っていけません。ピアノなら指の映る角度、ズームイン・アウトが上手かどうかで、印象が違ってしまいます。クラシックの撮影に慣れている制作会社『テレビマンユニオン』に、相談しました。
音響に関しても、アーティストから心配の声はありました。現在は、1本のマイクを、会場の設備を使い、3点吊りにしています。会場でも、座る場所で聞こえ方が違うことを考えると、一番きれいな音といえます。社員が、自宅でテレビやスピーカーを設置して聞いてみたところ、とてもよく聞こえました。環境によるところも、大きいかと思います」