厚生労働省の「平成29年国民健康・栄養調査」によれば、40代の男女のうち約半数が6時間未満の睡眠しかとれていないと回答し、さらに8割以上の人々が7時間未満としている。
日常的に6~7時間の睡眠をとっている人たちのなかで、自分が睡眠不足であることを自覚している人は少ないかもしれない。しかし、アメリカの非営利団体「National Sleep Foundation」は、26歳から64歳までの大人に推奨される睡眠時間は7時間から9時間であるとしている。
実は、日本人の多くが睡眠不足の状態にあるのだ。
コロナ禍によって、日本人の働き方も大きく変わっているが、日本社会は睡眠についても、新たに考え直す時期に来ているのではないだろうか。睡眠学について研究を重ねている明治薬科大学准教授の駒田陽子氏に話を聞いた。
「寝だめ」は悪循環を生むだけ「睡眠負債」の解消法
「睡眠負債」という言葉を聞いたことがあるだろうか。睡眠不足が「借金」のように積み重なることで、心身に不調を引き起こす状態のことだ。
30分から1時間ほどのちょっとした睡眠不足であったとしても、それが日常化すれば、仕事のパフォーマンス低下や、やる気の減退だけでなく、がんや糖尿病、認知症のリスク増加につながることが、数多くのデータからわかっている。
睡眠不足が蓄積すると思わぬ健康被害をもたらすということも、最近では、この「睡眠負債」という言葉とともに一般に認知されるようになった。
「睡眠負債」の厄介な側面の1つは、平日の睡眠不足を解消しようとして週末に「寝だめ」をしたとしても、解決には繋がらないということである。平日と休日の睡眠時間に差が生じると、体は「時差ボケ」のような状態になり、次の日の夜の寝つきが悪くなってしまう。「寝だめ」は、さらなる悪循環を生むだけなのだ。
例えば、平日は「0時に就寝し6時に起床する」という生活を送っている人が、休日には「2時に就寝し10時に起床する」という場合、就寝から起床の中間の時刻である「睡眠中央値」を計算すると平日と休日とのあいだで3時間のズレが発生するという。これを睡眠学では「社会的時差ボケ」と呼ぶ。
「この状態は、金曜日の夜に日本との時差が3時間あるインドまで行き週末を過ごし、月曜日の朝に帰ってくる場合に生じる時差を、毎週繰り返しているようなものなのです」
駒田氏がこう指摘するように、「睡眠負債」の問題と本質的に向き合うためには、この「社会的時差ボケ」の問題も含めて考えなければならないのだという。寝だめのようなかたちで平日と休日のあいだの生活リズムを変えてしまうことは、「睡眠負債」の本質的な解消にはならないのだ。
とはいえ、生活リズムを一定に保つために、休日でも平日と同じ時間に起床するのは辛いと感じる人も多いのではないだろうか。実は身体の健康を考えた場合、むしろ休日の生活リズムに平日のリズムを合わせる方が理にかなっている部分は少なくないと駒田氏は言う。平日の起床リズムをつくっている画一的な「9時始業」などの社会的なルールは、生活リズムの「朝型/夜型」といった個人差を無視している部分があるからだ。