発がん性が指摘されている交替制勤務。健康を害するリスクについて社会的に認知される必要がある(Unsplash)
コロナ禍以前は、東京オリンピック・パラリンピックに向けたインバウンドを期待して、ナイトタイムエコノミーの活性化が国レベルで推奨されていたが、「夜間」という市場開拓によって経済効果が生まれたとしても、労働者の健康問題が疎かにされてはならない。ナイトタイムエコノミーについても、睡眠に関する科学に基づいた議論が十分に考慮される必要がある。
IARCも「夜勤」の発がんリスクを警告
現代において交替制勤務は夜間作業を必要とする多くの労働現場で導入され,日本では15~20%の労働者が対象となっているが、近年,交替制勤務を原因にして引き起こされる健康障害が指摘されている。世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は、「概日リズムを乱す夜勤」による発がん性を5段階評価の中で2番目のGroup 2A(発がん性がおそらくある)に分類している。
IARCの発表を受けてデンマークでは、20年以上の交替制勤務に従事した後、乳がんを発症した女性労働者に対し,国が労災認定する形で労働者災害補償保険による給付を行なっている。デンマークといえば、年間の労働時間が1410時間と日本の8割程度でありながらも、一方で1人当たりのGDPは日本の1.5倍であり、日本の働き方改革の手本になる国の1つだ。日本では今後どのような議論が必要になってくるのだろうか。この点についても駒田氏に聞いてみた。
「私の意見としては、日本でもデンマークのような施策が必要になってくると思います。つまり、夜間の作業を伴う交替制勤務というのは、人間の生体リズムを無視して働かねばならない勤務形態だと言えるので、社会的には減らす方向に進んでいくのが望ましい。
しかし、無くすことができない職種も存在するので、そういう人たちに対しては現状よりも手厚い金銭的補償をしていくべきだという議論は十分にあり得ると思います。当然、交替制勤務は個人にとってのメリットもあるのですが、その裏にある健康を害するリスクについて、もっと社会的に認知される必要があると思います」
「24時間社会」ともいわれる現代社会を生きる私たちにとって、睡眠不足問題は喫緊の課題となっている。スリープテック市場は拡大を続けており、2020年の世界市場規模はおよそ800億ドル(約9兆1000億円)ともいわれている。質の良い睡眠を得るための商品やサービスが、市場のなかでますます存在感を増してきているといえるだろう。
アメリカの批評家であるジョナサン・クレーリーが著書の「24/7 眠らない社会」(NTT出版)のなかで指摘しているように、これは裏を返せば質の良い睡眠を「購入せねばならない」時代に突入したとも言える。
社会の経済的格差が如実に「睡眠負債」の問題に直結する未来も近いかもしれない。私たちの睡眠時間は、社会的な制度に大きく影響を受けるため、個人や市場の努力だけではどうしても解決が難しい部分がある。だとすれば「睡眠不足」の解消につながるような環境の改善は、市場だけでなく社会的にも求められていく必要があるだろう。
コロナ禍で大きく働き方が変わりつつある日本。多くの人が健康に働けるようにするためにも、睡眠に関する科学的な知見に基づき、社会的な議論が活発になっていくことを期待したい。