「虐待の連鎖」神話からの解放 虐待に至った親の回復プログラムの真髄

2018年に出版された、プログラムの真髄をまとめた『虐待・親にもケアを』(森田ゆり編著、築地書館)


「変わりたい」という切なる願いがあれば、変化は始まっている


母親たちは、最初、子育ての苦しさを訴え、子どもを傷つけてしまっている関わり方を変えたい、やめたい、でもどうしたらいいかわからないと、疲れ果てた状態でマイツリーの門を叩く。プログラムは全13回、毎週、休まず参加しなくてはならない。そこで学び、語り合い、自分自身と向き合うことになる。それは時としてつらい作業だ。見たくない自分を見なくてはならないこともある。

しかし、一人でそれをやらなくてもいい。「どんなことを話してもいい」という場で、人として尊重されてこなかった体験や、痛みを、自分に正直に語る。子どもを愛せないと語る親もいる。それを共感を持って聴いてくれる仲間がいて、共に笑い、涙し、分かち合う場と時間を通して、自分は本来、大切にされて当然の人間であったのだと感じていく。マイツリーのこの「仲間の力」というのは、毎回プログラム実践の場において感じるが、本当に感動するものだ。


ゆずりはでは毎回セッションの場に花を飾るようにしている。プログラムには自然の力も取り入れている。

そうして、子どもたちの声をよく「聴く」ようになると、それまでには気づかなかった子どもの気持ちにも思いを馳せられるようになる。関わり方が変わってくる。

もちろん、なかなか変わらないと悩んだり、変わったように見えて、また戻ってしまったと落ち込むこともある。マイツリーは変化を強制するものではなく、あるべき親像に導くこともない。ペースもタイミングも、人それぞれだ。しかし、「変わりたい」という切なる願いを持って、プログラムに参加したことがすでに、変化に向けて歩み出しているということなのだ。

心に負った傷は目に見えない。目に見えないからこそ、自分でも見過ごしてしまいがちだ。だからこそ、手当てが必要なのだ。

人が回復していくには、時間もかかる、費用もかかる。でも、生きることがたとえ困難な道であっても、傷つけ、傷つけられたら終わり、ではないのだ。「回復」はある、と信じたい。人間は生きる力を持って生まれてくる。その人のなかに広がる、豊かな力がきっとある。

いまもどこかで、コントロールできない怒りで苦しむ親に、変えたい、変わりたいと願う親に、このプログラムが届くことを、願っている。

連載:共に、生きる──社会的養護の窓から見る
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文=矢嶋桃子

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