イチジクは「無花果」と書くように、花を咲かさないと言われているのですが、実は花がないわけではありません。イチジクの実は内側に空洞のある袋状になっていて、その内側に小さな花がたくさん並んでいるんです。と言っても、花弁がないからわかりづらいのですが。
糖質が知恵の始まり?
さて、イチジクは世界最古の栽培果樹として、アラビア半島南部で六千年以上前から栽培されてきました。エジプトの壁画にも描かれていますし、聖書にも登場します。
エジプトの壁画によれば、その時代にガチョウの肥育をしてフォワグラを作っていたとされており、古代ローマ人が干しイチジクをガチョウに与え、肥大した肝臓を食べたのが始まりと言われています。これは、「アピシウス」という古代ローマの料理人の本にも書かれています。
旧約聖書の「創世記」には、アダムとイブがエデンの園で「禁断の果実」を食べるという話があります。宗教や宗派によって、その果実がリンゴだったのか、イチジクだったのか……など論争があるようですが、「知恵の樹」になったその実を食べたことで無垢だった二人は恥ずかしさを覚え、イチジクの葉で局部を隠し、その事態を知った神から楽園を追放され、下界で「死」を負って生きていくこととなります。
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無垢とは無知なのか。果物がなんであったにせよ、食に携わる者としては、果実の糖質を取ることが知恵への始まりという点に興味を持ちました。
ミネラル豊富、貧血予防にも
そんなイチジクは、ペルシャから中国を経て、江戸時代の1600年代半ばに日本に渡ってきたと言われています。現在は様々な品種改良が進み、ヨーロッパのものとはまるで別物ですが、日本ではジューシーなイチジクが出回っています。
栄養面では、現代人に不足しがちなミネラルが豊富。ナトリウム(塩分)の排出を促すカリウムが多く、塩分の採り過ぎによる高血圧やむくみの予防に向いているほか、血液や骨の栄養素となるカルシウムや鉄分も多いため、夏の貧血予防にもいいでしょう。フィシンというタンパク質分解酵素は、消化促進や二日酔いの予防に良いともいわれています。
また、水溶性の食物繊維であるペクチンが豊富に含まれ、腸の活動を活発にするため、便秘に悩む女性には非常に良いとされています。イチジクが古来から女性のシンボル・象徴であることを思うと、面白いつながりを感じます。