日本版「オードリー・タン」は生まれるか 新型コロナ対策、神奈川の秘話

神奈川県庁で語る畑中洋亮


「病院の稼働状況をオープンデータにしないといけないと思いました。半分ダメになっているなら、他の半分で地域を守りきることを考えないといけない。データを集めてどれくらいのスピードで医療崩壊が起きているのかも把握する必要がありました」

全体を把握しなければ、次の手が打てない。過去に同じような状況に直面していたことを思い出した。畑中は公園の遊具を製作する老舗企業コトブキの取締役でもあった。コトブキの創業家オーナーでもあり、畑中の大学の同期でもあった深澤幸郎代表取締役社長から手伝って欲しいと声がかかり、「会社改革・新しい時代作り」担当で役員を併任することになったのだ。

改革の中で、創業100年を超えるコトブキに新たに立ち上げたのが、IT子会社コトラボ(現:パークフル)だ。そのコトラボの主事業が、日本全国にある11万件の公園のデータベースを一から作る事業であった。コトラボは、日本最大の公園データベースとそれを検索できるスマホアプリ「PARKFUL」というサービスを作り上げた。

「ベンチャー在籍時には企業の業務用スマホなど、いろいろな場所に散っているものごとの変化を網羅的に見る仕組みを作ってきました。公園やスマホと同じように病院の逼迫具合を俯瞰して見ることができると思ったんです」

副知事に話をして、「3月の頭に新型コロナウイルス対策本部を作るから、情報収集班を任せる。県庁の職員も何人かつける」と約束を取り付けた。

国の一大事だ。最高のメンバーで乗り越えたい。畑中は公園のデータベースを作った時のコトブキの社員を神奈川県の対策本部に招聘した。さらに、サイボウズやスタディストなど情報収集をするクラウド基盤の事業者の幹部もチームに招聘した。外部人材を含めて体制を一挙に構築した。ニュースを見てから、まだ数日しか経っていなかった。

ただでさえ未知なる感染症との戦いで病院が忙しく動いている中、どのようにデータベースを作ってきたのか。11万箇所の公園のデータベースが生まれた過程を踏まえて畑中は「情報を入れてもらうのではなく、取りにいくことが大切」と話す。


写真=曽川拓哉

「ものすごい強力なコンテンツやインセンティブがないと、情報を受動的に集めることは難しいのです。だったら一回取りにいけばいいんです。11万件あれば、11万回行けばいいんですよ」

簡単に言ってしまっているが、そこには大きな覚悟が見える。公園のデータベース作りも、1700以上の基礎自治体のホームページにアクセスすることから始めた。その後、自治体が管理していない公園も網羅するために、グーグルマップを使いながら日本全国をしらみ潰しのように調べた。

「一回やり切るというハートの強さと原資(カネ)と体力があれば、実はみんなに入れてもらう必要はありません。誰かが汗をかいて、バラバラなものを集め切る。バラバラなものを自らが整理したい構造でデータベースにすれば、俯瞰した状況をみる、ものすごく強力な仕組みができます」

彼は集めたチームで、350病院全てに毎日連絡し続けたのだ。
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文=井土亜梨沙、写真=曽川拓哉

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