いま、花き業界の世界的な傾向として「日持ち保証」というものがあります。以前少し述べましたが、イギリスでは1993年に大手スーパーがそのサービスを始めると、15年間で約3倍まで花の家庭消費が増えたと言われています。これに続けと、各国で同じような潮流になっています。すると、日持ちに強く、安定した品質を大量に作ることが、花の生産の最優先事項となります。
この流れで、ヨーロッパで販売されるほとんどのバラがアフリカ産になっています。また、アメリカで販売されるバラに関してはコロンビアやエクアドルで主に生産されています。赤道直下で標高が高い場所では、一年中春のような陽気で台風もなく、土地も安く、設備投資は最小限で済みます。少量多品種生産は効率が悪いため、大量生産に走るので、どうしても繊細さがなくなってしまいます。その結果、茎が太く花弁が厚めのエネルギッシュなバラが、世界共通で出回るようになりました。
一カ月間咲いた状態を保つようなバラは、確かに装花などにはぴったりです。または、海外のように居住地が広く、花をインテリアとして少し離れたところから鑑賞するようなライフスタイルでは、そうした花をどっさり生けるようなのがいいのかもしれません。
日本の花は一輪一輪が美しい
しかし日本には四季があり、その月その月で旬を楽しむ食材や色があり、イベントがあります。その生活を花で沿うようにした暮らしがあるのが日本の文化です。
たとえば、土耕栽培で育てている産地のバラは、花は蕾から吹き上がるように咲いていきます。その花と茎の細さと葉の美しさは芸術的。だからこそ、一輪で飾るとその素晴らしさが引き立つ。日本の花は一輪一輪が美しいので、一輪挿しや生け花にも耐えうるのです。
バラの開花の様子
香る花もしかり。香りを出す花はその分エネルギーを消失するので日持ちはしません。日持ちだけを優先すると、そういった花は生産されなくなります。しかし日本では、たった3日であってもその時にしか咲かない花を愛でて、その季節を愉しむ。そんな風情が根づいています。緯度を縦断する島国だからこそ、南の花も、北の花も取り扱うことができるのも日本の良さです。
現在、日本で商業的に生産・販売されている花きはおおよそ2万品種。毎年3000から5000の新種が日本の花の市場に登場し、その数は世界一を誇ります。青山フラワーマーケット 南青山本店では、おそよ100品種を取り揃えていますが、その数を扱っている花屋は世界的にみても稀。私たちにとっては当たり前のことが、海外では新鮮に映るのです。
青山フラワーマーケット 南青山本店
日本に在住する日本人にはもちろんのこと、コロナが落ち着いたのち日本を訪問する海外からの方々にももっともっと世界に誇るべき日本の素晴らしい旬の花をしっかり愛でていただきたいと思います。
連載:Living With Flowers Every Day
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