未来の医療従事者1000人がつづる「生きるための交換日記」



(一番左)「生きるための交換日記プロジェクト」の寺本将行

寺本がこうした「未来の医療従事者」への支援を行う背景には、彼のこれまでの活動がある。寺本は大阪大学医学部医学科時代の2014年、若者の力でさまざまなヘルスケア課題の解決を目指す団体「inochi学生プロジェクト」を立ち上げた。その活動は、現在、寺本が理事を務める、医療者、企業、行政、市民、患者などで「みんなでinochiの大切さと未来について考え、行動するプロジェクト」の一般社団法人「inochi未来プロジェクト」として継続している。

「世界で初めて、VR(仮想現実)とAED講習を掛け合わせて関心がない層にも知らせる目的の『AED360°プロジェクト』を2015年に行いました。VR元年と呼ばれる2016年の一年前で、世界初の取り組みでした。また、2025年の大阪万博誘致に向けて、テーマに関しての若者からの提言や若手クリエイターと共にプロジェクト作りを行ってきました。そして毎年、「inochi学生フォーラム」を開催してきました。医療×異能人材を生む、現代版『緒方洪庵の適塾』を目指しています」(寺本)

「inochi学生フォーラム」は、ヘルスケア問題の課題解決型実践プログラム。現在、inochi Gakusei Innovator’s Program(iGIP)へと名称変更した。毎年、一つの医療・ヘルスケアの課題をテーマに選び、ヘルスケアを志す中高生の参加者チームに対して、特別講義やワークショップ、大学生のメンタリングをし、それぞれの地域コミュニティで各自のプランを実行、成果を発表する一連の取り組みだ。20年のテーマは「発達障害」。これまでも「心臓突然死」「自殺」「認知症」などで行ってきた。日本を含めて7カ国、計600名以上が参加し、合計150を超える課題解決アイデアを創出してきた。

「パラオ共和国での疫学研究経験で、病院内だけでは解決できない問題に直面しました。これからは病院の“外”でのヘルスケアによる課題解決策も必要になります。私は『予防医療3・0』と呼んでいますが、『民主化されたテクノロジー』と『コミュニティ・リーダーシップ』が掛け合わさることで、医療のイノベーションが起き、実現できることが多くなると思っています。そうした課題解決志向の次世代の医療従事者人材の育成に携わる過程で、中高生に投資をすることの必要性を感じてきました。今回の『交換日記』プロジェクトも、『未来の医療従事者』の可能性とその必要性を感じているからこそ、はじめたいと思いました」(寺本)

寺本自身は現在、大阪大学医学部にて疫学研究を続けている。それ以前の19年にはWHO(世界保健機関)本部で世界のウェルビーイング研究と政策のレビューに従事。20年9月からは、ハーバード大学公衆衛生大学院入学予定だ。そして「inochi未来プロジェクト」では、医療者・企業・行政・市民・アカデミア・患者と皆で一緒になって命を守る社会の仕組みをつくるという価値概念「inochi CSV」を提案し、その具体化に向けてブロックチェーンやxRを用いたバーチャルパビリオンプロジェクトなど、2025年大阪万博を見据えた取り組みを加速させている。

「私の志は、医師を志した時から一貫して『いま救えない命を救うこと』。ただ、そのためには、一つのアプローチだけでは難しい。グローバルでの活動、地域での活動、医師としての活動──。それぞれが重要で、かつ、いかに多くの人たちとともに取り組み、その力をつなぎ、助けを借りることで、命を守る社会を実現できるか。そんな挑戦をしていきたいと思っています」

寺本も登壇する7月24日「Hack the World」の開会式は、こちら。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使を務めるMIYAVIをメインパーソナリティに招き、自らの意思で世界を書き換えようと行動する「Vision Hacker」たちとトークセッションを行う。

文=山本智之 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 8月・9月合併号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事