ビジネス

2020.07.24

生命感を光で表現する、マツダのデザイン哲学

筆者(後方)と収まる、マツダ常務執行役員の前田育男(手前)。


──「ソウルレッド」はどのように生まれたのですか?

赤系のブランドカラーを作りたかった。でも、ふつうの赤ではない。つまり、光が当たるとシルバーっぽく、当たらないと黒に見えるような赤。完成するのに、2年くらいかかったね。フェラーリの赤はきれいだけど、変化しないでしょう。

──マツダの赤はネイルやリップスティックを思わせる、艶やかで濃いレッドです。女性の感性を意識した色だと思いました。

そう。やはり、色気が大事だと思う。クルマには色気を出せてきたけど、まだブランドとしては色気が足りないね。でも今、ピーターさんが触れた赤なんだけど、じつはそれは「ネッビオーロ」のルージュ色なんだよね(編集部註:イタリア北部で生産される黒ブドウの品種。最高級の赤ワインで使われる)。サンジョヴェーゼの赤ではない。僕の頭の中では、いつもグラスの中でくゆらすワインの赤がある。バルバレスコの赤が結構好きだね。

──うおー。前田さんは、ワインの赤からインスピレーションを受けるんですね!

ワインを見ていると、「こんな風に光るのか」という気づきがある。日常生活でも街を歩いているときは、、ぼーっと歩かないで周りをよく見ているんです。疲れるけどね(笑)。

──ソウルレッドはずっと続きますか?

メインのブランドカラーとしてどう進化させるか、考え中。そういうときは、色々な角度から光を当ててみます。これくらいの深みがいいねぇ……、というように。

──ベースはネッビオーロですか?

ねえ(笑)。ワインセラーにはいつも「B」のつくワイン、例えば、バルバレスコやバローロ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなどが入っていますよ。

──前田さんのリードで生まれたデザインや色は欧州で高く評価され、 世界一流のクラシックカーの祭典であるイタリアの「ヴィラ・デステ」に招待されました。日本車はめったに呼ばれないでしょう?

「RX-ビジョン」というコンセプトカーを、厳しい目をもつ欧州の専門家たちが高く評価してくれました。マツダの個性的な外観と色が認められたのはうれしかったですよ。授賞式の会場で、参加者に「そのクルマがほしい。いくらだ?」と聞かれました。うれしい褒め言葉だけれど、さすがにコンセプトカーは売れないよね(笑)。

クルマだけでなく、ブランドの全領域に腕をふるう前田育夫。次回は、彼が目指すさらなる高みについて触れたい。

文=ピーター・ライオン 写真= 能仁広之

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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