胸の中にある熱い思いを、こう語るのがFictiv(フィクティブ)の共同創設者であり、CEOのデイブ・エバンズ氏だ。さらに彼はこう続ける。
「製造業は自動運転車を走らせ、手術を行うロボットを生み出し、宇宙へ飛ばすロケットを作ることができる。製造業は古い、面白くないという見方を変え、世界で最も魅力ある仕事だということを次世代へ伝えていきたいと思っているんだ」
プロトタイプを迅速に作りたい顧客と、稼働可能な製造設備を持つ業者をマッチングさせることで開発サイクルを早める製造業のオンデマンドプラットフォームを構築したFictiv。
創業から約7年。世界中に150人以上の従業員を抱え、250社以上をパートナーとして、約60億円(約USD58百万)の資金調達も実施し、「製造業のAirbnb」とも呼ばれている。
今回、新型コロナ禍でも真価を発揮し、医療用フェースシールドの量産にも貢献。株主でもある三井物産株式会社の社員有志による日本向けの医療用フェースシールドの寄付においても素早く米国から製品提供を可能とした、という。今回、CEOのデイブ氏に何度も訪れた中で感じた日本の製造業の素晴らしさ、そして自社で展開する製造業のオンデマンド化への可能性について話を聞いた。
ソフトウェアを作り出すスピード感でハードウェアを生み出す
「エンジニアとして、ただ目の前の問題を解決したいと思っただけです」
デイブ氏は創業の経緯について、シンプルに語ってくれた。
2012年6月にシリコンバレーにオープンしたフォード・モーターズ・カンパニーの研究室に勤めていた前職では、開発のスピード感に非効率性を感じていた。問題の根底はサプライチェーンにあった。時にはプロトタイプ(原型)が手元に届くまで12〜14週間かかることもあり、新たなモデルを生み出すのにも時間を費やすことになってしまっていた。
そうした中、デイブ氏は「ソフトウェアを作り出すスピード感でハードウェアを生み出す」というビジョンを描いた。AirbnbやUberなどが行っていることを製造業やハードウェアの業界でも出来ないか。そう思い、2013年にFictivを設立。会社としては自ら機械を保有せずに、可動していないまたは余っている機械を持つ工場とそれを必要とする企業を繋ぎ合わせていく新たなサプライチェーンを生み出した。
共同創設者はスタンフォード大学院で中国語を学んだ兄。「一緒に会社を作るということは、結婚するみたいなこと」と表現し、当時はスクーターに乗って手渡しで部品をフェイスブックなどの企業に送り届けていた。Fictiv設立の原点にあったのは、エンジニアとして人のニーズに応えるということ。当初はそのニーズに対して、実際に足を使って運ぶところから始まっていた。
新型コロナウィルスは製造業のテクノロジー化の機会に
7年間、事業が拡大し続け今ではグローバルに展開するFictivの事業。その最中、世界中でパンデミックとなった新型コロナウイルスの影響はどうだったのか。
少しその前を思い出してもらいたい。新型コロナウイルス発生前から米国と中国の間では貿易戦争による混乱が巻き起こっていた。そのためグローバルに展開する製造業にとって2020年は世界中で不透明な状況がすでに予想されていた。
そして二つの出来事が同時多発的に発生したことで世界中の企業や製造業者はサプライチェーンの構想を練り直す必要を余儀なくされていた。未来を見据えた時に、従来のコミュニケーションでは成り立たない、デジタルを活用し機敏に動かせることが必要という考えがすでに広がっていたという。