谷本:尾原さんは相手の過去にある痛み、ある種の“ペイン”を理解して、併走しているってことですよね。確かに、人のペインポイントを理解するのってかなり重要だと思います。
ただ、側から見れば人生もキャリアも順風満帆に歩まれてきた尾原さんが相手のペインポイントを理解できるようになったのには、どんないきさつがあったのでしょう? ずっと不思議に思っていたので、ぜひお聞きしたいです。
尾原:僕は、その人が過去にどんな決断をしてきたかを理解することが大事だと思っています。決断って、本人のこだわりが全面に出るんです。例えば、人には「普通に考えたら右の方が得をするのに、なぜか損してでも左に行く」瞬間があります。儲かるとか昇進できるとかより、もっと強いこだわりがあるから左を選んでいるはずです。そして、そうした人のこだわりの9割は痛みから来る、というのが僕の考えです。
谷本:そう思います、たしかに。
尾原:「なりたい自分」って、そもそも本人の痛みや失敗に起点が置かれていることが多いと感じるんです。何か辛いことがあったから、ペインポイントが重力となって、「なりたい自分」の願望を作っている。
例えば人が「いいね数」や「売上」みたいな数字に囚われるのも、もとを辿ればそこにペインポイントがあるからじゃないでしょうか。もちろん全てではないですが。僕がこれまで見聞きしてきたところだと、親が子に知らずのうちにペインポイントを植えつけているケースが多い。「うちにもっとお金があれば、いい塾に入れられたのに」「いい学校を出ていれば、もっと成績がよかったかもしれないのにごめんね」とか。
それは一見、親の優しさなのだけれど、一方で親が数字に囚われているともいえる。すると、必然的に子は影響を受けます。本当に素晴らしい結果を出していても、より上を、一流を求めようとする。それは「二流、三流でごめんね」と言われ続けて育ったことが、本人のペインポイントになっているからかもしれません。
逆に言うと、相手のなりたい未来にプラスになるギブを続けていくと、必然的に相手のこだわりやその裏返しであるペインに気づけるようになっていきます。
だから、失敗を恐れずにどんどんギブしていいと思います。僕だって、メールが返ってこないことなんていくらでもある。でもそれすら、「この情報は響かないんだな」という相手の情報を得たことになるので、損することは何もないんです。
オンラインで繋がる社会というのは、ギブを気軽にたくさんできる環境でもあります。だから、はじめは的外れでも、少しずつ相手が喜ぶギブに近づいていけばいいんです。
「あえて数字からおりる働き方 個人がつながる時代の生存戦略」尾原和啓著(SBクリエイティブ)
谷本:本当にそうですね。相手のペインポイントにきちんと思いを馳せられるか、配慮できるか。それにはギブを重ね、感受性を豊かにしていくことでもあるんですね。
尾原:どんな時代でも必要とされるのは、ペインポイントを理解して、相手にギブできる人とも言えるかもしれませんね。それが本のメッセージでもある、「何者かになりたいなら、まず誰かにとっての何者かになろう」です。大切な人たちの需要のなかで「ありがとう」と言われることを重ねていくと、変化の時代にもブレない軸が見えてくるはずです。
月並みな言葉ですが、変化の時代では、変化しないことがリスクになりやすい。変化を楽しむつもりで、たくさんのギブをぜひ試してみて欲しいです。