「香港人は人権まで奪われた」 香港在住の若者が明かすリアルな心情

ショッピングモールで何も書かれていない紙を掲げ、無言の抗議をする若者たち(Getty Images)


A.S:最初はデモに参加していたのですが、警察が過激な行動を取り始めた頃から、両親が心配したので参加するのはやめました。逮捕者も出ており、身の安全と将来のことを考えると怖かったです。その後は、署名運動に加わり、情報を拡散することで意見を発信してきました。クラスにはデモに参加している人も多く、一国二制度の約束が守られていないことに、怒りと疑問を感じている人が多かったですね。

デモの情報は、主にツイッターやテレグラム(LINEのようなメッセージシステム)、LinkedInなどで回ってきました。これらは匿名で利用することができ、プライバシーが守られているからだと思います。

──日本でも「民主化の女神」として知られる周庭(アグネス・チョウ)さんは、デモ参加者を煽り、警察本部を包囲させた罪で起訴され、8月5日に判決が言い渡される見通しです。また、周さんが黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんらと共に民主化運動を進めてきた政治団体「香港衆志(デモシスト)」は国家安全法施行の直前に解散を発表しました。どのように受け止めていますか。


アグネス・チョウ、ジョシュア・ウォン

2019年8月に逮捕され、その後釈放された時のアグネス・チョウとジョシュア・ウォン(Getty Images)

T.Y:グループの脱退や解散は、身の安全を考えると正しい判断だと思います。国家安全法の下では、リーダーだけでなくメンバーたちにも警察の手が伸びてきます。アグネスさんについては、有罪となる可能性も出てきました。ジョシュアさんは、9月の議会選挙に出馬するようですね。他のリーダーたちも、反政府デモを主導した罪で起訴されています。

A.S:周りの友達も民主派メンバーの逮捕や起訴についてよく話しています。やはり逮捕されるとなると、将来が心配だという不安を持っている人が多く、この法律で声をあげる人は確実に少なくなるでしょう。このような報道を見て海外への移住を考える人も増え、そのために貯金をしている友達もいました。

──民主化や政治的な自由を奪われた香港は「変わってしまった」と言えます。この現実とどう向き合いますか? 香港の学生が将来を考える際に影響があると思いますか?

T.Y:
周囲の学生で、金銭的に余裕のある家庭は香港を出る選択をした人も多いです。友達にも、BNO(イギリス海外市民パスポート*)を用いてイギリスへ行く人や日本に移住する人もいます。

私も現在、(新型コロナウイルスによる)国境封鎖が解かれるのを待っている状態です。海外へ出れるようになったら、彼氏の住んでいるオランダへ移住する予定です。私の印象では、国家安全法の制定後から香港を離れたいと思う若者が増えたように感じます。

*イギリスのボリス・ジョンソン首相は7月1日、イギリス海外市民パスポート(BNO)を所持または所持する権利をもつ香港市民約300万人に市民権や永住権の申請を許可する方針を発表した。BNOとは、1997年の香港返還以前に生まれた香港市民がもつことができる権利で、これまでは6カ月の滞在しか認められていなかった。新しい計画では、BNO所持者とその扶養家族はイギリスに5年間滞在することができ、就業も認められる。5年たつと永住権の申請ができ、さらに1年後には市民権を得ることもできるという。
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文=田中舞子 編集=督あかり

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