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2020.06.09

世界に広がる「埋められない格差」、ビリオネア主導のコロナ支援

5月25日発売のForbes JAPAN7月号は、「パンデミックVSビリオネア 変革を先導せよ」特集。Forbes恒例の「世界長者番付」と「日本長者番付」の2020年版を発表、ビリオネアが新型コロナウイルス禍で行った事業などを紹介している。

新型コロナウイルス禍で、ビリオネアの慈善事業に対する期待が高まったが、世界の格差はますます広がっている。


世界2位の大富豪であるビル・ゲイツは、5年も前からパンデミックに警鐘を鳴らし、感染症対策に取り組んでいたとして、新型コロナパンデミックで改めて脚光を浴びている。経験に基づいた高い知識と専門性、強いリーダーシップ、そして国家予算規模の財力を駆使し、その迅速で的確な行動が世界から賞賛された。

ビル・ゲイツ以外にも続々とビリオネアによる支援が発表された(ビル・ゲイツ、イーロン・マスク、ザッカーバーグ、柳井正、ジャック・マー、李嘉誠ら)。ジャック・マーは世界各国にマスクや医療資材を送付、巨額寄付の発表も相次いだ。ピーター・ティールらがバックについた科学者チームの秘密活動や、ビリオネアによるワクチンや治療薬開発への出資など、財力だけでなくコネクションも使って社会へのインパクトを高めている。

一方、日本では孫正義と三木谷浩史らが注目を集め、一定の評価も受けたが批判も多かった。戦略性は見えず、人々の反応を見ながら模索しているようだった。

ゲイツ財団のような世界をリードする海外の富裕層の慈善事業と日本の違いは何か。

1つ目は「規模の問題」だ。そもそも海外と比較して日本では寄付金額が少ない。日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2017」によると、個人寄付は少額で、特に大型寄付が少ないと以前から指摘されてきた。ふるさと納税や寄付税制の改定で若年世代の寄付も増えているが、全体的には高齢者の小口寄付が中心だ。

2つ目は、ファミリー・オフィスや財団の存在だ。ファミリー・オフィスは富豪一家の資産を管理する組織。古くはヨーロッパの王族から始まり、米国やアジアの富豪にも普及した。超富裕層なら数千億円の資産を運用するため、数十人から数百人単位で専属のプロフェッショナルを雇用。そのオフィスのビジョンを実現するために活動する。

米フォーブスが毎年発表している米国高額寄付者ランキングでは、その多くが財団やファミリーオフィスを構え、注力する分野や得意なテーマを持っていた。普段からそのような活動をしていると、緊急時にも場当たり的な対応ではなく、全体像を見据えた戦略的でビジョンに合致したプランニングができる。

日本で個人寄付や社会貢献に積極的に取り組む経営者のひとり、ラクスルの代表取締役社長CEO松本恭攝はこう指摘する。「日本でも実は寄付をしている人は少なくないが公に言わない人が多い。積極的に寄付について発言をするようになると、寄付する行為が『かっこいい』という社会の雰囲気ができる」。

松本自身は、独立系シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」の理事に就任し、若手研究者の海外シンクタンクへの派遣プログラムを設立。また、今回の新型コロナ危機では自社の物流プラットフォームを活用した医療機関への資材配布支援を開始した。

「起業家は問題の解決者。社会課題への関心も高い。今後、日本でも素晴らしい事業を立ち上げた起業家が慈善事業家としても成功者にもなれば、大型の寄付が集まりやすくなり、慈善事業の質も向上していくのではないか」と期待する。
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文=Forbes JAPAN編集部

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