ビジネス

2020.06.09

世界に広がる「埋められない格差」、ビリオネア主導のコロナ支援


慈善事業で世界を変えられる?


一方、海外の富裕層の慈善事業に課題があることも指摘しておきたい。スイスの投資銀行、UBSがビリオネアの動向を分析したリポート「ビリオネア・イフェクト(2019)」によると社会貢献活動に関心を寄せる裕福な起業家は世界的に増えているという。ただし、その貢献度を測るのは難しい。今回のビリオネア2095人のうち、大半は新型コロナウイルス関連の寄付額を公開していないか、寄付していなかった。

ビリオネアの慈善事業は対象や地域の偏りが大きくなる点も注意したい。UBSの同リポートによると、ビリオネアの出身国によって慈善事業の傾向が異なる。ヨーロッパ、中東、アフリカ地域は国際活動重視、アジアは自国重視、米国は国際と自国で半々ほど。ビリオネアがいる国や地域はごく一握りで、空白地帯が生まれやすい。内容では教育やヘルスケアは人気で、貧困や環境対策は比較的少ない。ビリオネアに女性が圧倒的に少ない点も偏りを助長する要因になる。

米国の新型コロナウイルスの感染拡大では、医療アクセスの乏しい貧困層や移民の感染率や致死率が高かった報告があったが、そもそも社会課題の解決には、ビリオネアを生み出すような貧富の格差の是正が重要だ。

米ジャーナリストのアナンド・ギリダラダスは2018年の著書『Winners Take All: The Elite Charade of Changing the World』で富裕層の慈善事業を「片手で助け、片手で殴るようなものだ」と痛烈に批判。格差是正には大企業の税逃れや高騰する経営者の報酬問題への取り組みが不可欠で、格差社会の勝者たちの論理では根本的な課題解決はできないと主張した。

慈善事業は、税で賄う公共政策とは異なり、ビリオネアの一存で巨額が動く。だからこそ新型コロナといった危機において迅速で的確な対応もできる。寛大な富豪たちの動きは歓迎すべきだが、何でも解決できる万能薬ではないことは覚えておくべきだ。

文=Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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