──私が王さんに初めて会ったときには、日中学生会議で代表を務められていましたね。
日中学生会議は、日中両国の大学生でつくられた団体です。メインの活動は毎年夏休み期間に実施する合宿形式のディスカッションイベントでした。開催国は交互で、両国の大学生が交流を深めながら、テーマを決めてディスカッションを行います。テーマは、環境問題、教育、格差、安全保障、歴史認識、経済関係など幅広く、参加者はいずれか1つを選択します。
日中学生会議のメンバーでの写真
私は最初、アジアのなかの日本について考える良い機会になると思い参加しました。周囲には無条件に欧米を称賛するような考え方をする人が多かったのですが、私は以前から違和感を覚えていました。そして、日本の独自性とは何かを考えたときに、日本の文化に大きな影響を与えた中国との関係性に関心が向いたのです。
──日中学生会議での活動を通して、どのようなことが見えてきたのでしょうか?
大きな断絶を感じました。日中学生会議に参加している学生たちは、大前提として友好や交流を目的としています。にもかかわらず、歴史や安全保障の話になると、建設的な議論を超え、感情的な対立になってしまうのです。
日中学生会議で議論している際の写真
なんとかこの壁を乗り越えることができないものかと思い、代表に就任してからは、相互理解と日本人学生の中国への理解の推進を目標に、さまざまな活動をしてきました。
夏休みのイベントのほかにも、フィールドワークや勉強会を重ねるなかで、交流の時間や多角的な視点が交わる機会を増やしました。また、外の人に対しても、中国のさまざまなテーマに関して興味がある人たちを集めて討論会を開催するなど、いろいろな価値観がぶつかるよう務めました。
しかし、討論会の集客には苦戦し、思っていた効果は得られませんでした。翌年以降も継続させようとしましたが、自分が引退した2年後にはこうしたフィールドワークや討論会はなくなってしまいました。
留学して中国という国を肌で感じた
──苦戦されたのですね。その後に北京大学に留学された?
実際に現地に飛び込んで学んでみようと留学しました。中国という国の仕組みやその実像に迫りたいと思い、中国の政治学や社会学を勉強しました。これまでは日本視点でしか中国を見たことがなかったので、中国を理解するため、自分自身が中国の視点を持ちながら学ぶことに徹底しました。
日本では表面的に「中国の行政は賄賂が横行していて腐敗している」と捉えられていますよね。現地で国家公務員の志望の同世代や実際に国家公務員として働く人たちから話を聞くと、そもそも背景に国家公務員の給与が安いことや、労働環境が悪いということがあるとわかり、現地の状況を肌で感じました。
また、政治学の授業では、中国と台湾の政治体制が比較されていました。そこでは、中国では優秀な人材が正当に評価されて役職につくが、台湾の議会政治は選挙によって混乱が起き、人気などの人材の優秀さとはかけ離れた部分で政治家が選ばれるので、「よくない政治」として教えられており、学生たちもその理論を違和感なく受け入れていました。