「企業ノイズ」をブランディングに活用 音の余白が生み出す新たな可能性

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コロナ禍による緊急事態宣言がようやく全国的に解除されましたが、外出自粛の期間中には、オンラインによる「リモートワーク」や「リモート飲み会」などが一気に一般的なものになりました。

それと同時に、「オンライン疲れ」なる言葉をニュースやWebなどでも見かけることが多くなりました。なぜ、オンラインによる打ち合わせや飲み会は疲れるのでしょうか。それは、「余白」が少ないからではないかと、私は考えています。

実際に対面でする打ち合わせや飲み会には、「余白」があります。例えば、飲み会で誰かの話が長くてなかなか終わらないときに、店員さんがおかわりのビールを持ってきてくれて話が途切れたとか、ちょっと疲れたら自分から自由に席を立ってみようとか、そういうことです。

つまり、もともと予定されていたものではない要因が紛れ込む可能性が常にあること、自分で自由にできる遊びがあることを私は「余白」と定義していますが、この「余白」が、人間には必要なのだと思っています。なぜなら、こうした「余白」こそが、新たな可能性を生み出す源泉となるからです。

ノイズが若者たちからの共感を得る


このコラムで私が連続で取り上げてきている生活音や雑音などの「ノイズ」にも、余白があります。映像や画像よりも抽象度が高い「音」は、聴く人すべてに同じイメージをもたらすものではありません。だからこそ、思ってもみなかった可能性や想定を超えた効果を生み出してくれるのです。

私がこうしたノイズの可能性を事業にしようと取り組むなかで、音に余白があるがゆえに生まれた顕著な効果を、3つの事例で紹介したいと思います。

まず、1つ目は、若者と企業との関係性を強化することに、企業が持つノイズが予想以上に機能した例です。

若者のカルチャーや嗜好の多様化が進むなかで、多くの企業は、若者たちとどのようにコミュニケーションをとったらいいかわからないと悩んでいます。私がこれまでやりとりしてきた企業にも、「若者たちからカッコいいと思われていない」「ダサいと思われている」といった自社のイメージに頭を悩ませているところが多くありました。

特に、インフラ業界やエンドユーザー向けのメーカーを支える部品メーカーなど、普段は若者たちと直接コミュニケーションを取る機会があまりない業界の企業にこうした例は多く見受けられました。

仮に、こうした企業が若者たちとの関係性に課題を感じていて、それを改善するようなコミュニケーションをとってみても、若者たちが反応したくなるような結果には残念ながらなっていないケースがほとんどでした。

私はこうした企業にノイズを使ったブランディングを提案してきました。それは、ノイズ自体に、若者たちが反応しやすいASMR(Autonomous Sensory Meridian Response、人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地良い、脳がゾワゾワするといった反応や感覚)としての価値があると考えたからです。

具体的には、その企業の、通常なら立ち入り禁止である工場で発生するノイズをいくつか録音してサンプリング音源として提供しました。この施策は、私の予想をはるかに超えて、若者たちと企業の関係性を強く、良好なものに変えてくれたのです。
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文=安藤 紘

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