そんなネガティブなイメージを持たれがちなノイズに対して、私がポジティブな可能性を感じた話を書きたいと思います。
「ASMR」という言葉をこの1年の間に耳にした、あるいは目にしたという人も多いのではないでしょうか。ASMRは、日経トレンディが選んだ「2020年ヒット予測ランキング」でも第8位に選ばれた、いま、とても注目されている言葉です。
ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)とは、(日本語での明確な定義はないのですが)“人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地良い、脳がゾワゾワするといった反応や感覚”のこと。咀嚼音やタイピング音、焚き火のパチパチ音などのいわゆる生活音や環境音と呼ばれ、いまはこれらがYouTubeなどでも人気コンテンツになっています。
キッチンの音を聴くと集中できる
こうして具体的なノイズの種類を挙げてみると、「え? それが気持ちいいの?」と腹落ちしない人も、かなり多いのではないでしょうか。私も、いままでさまざまな人にASMRについて話してきましたが、そんな反応をされることが多かったです。
ASMRのなかで有名なものと言えば、咀嚼音。世の中の大半の人は、親から「食事中は音を立てるな」と教育されてきたと思います。なぜなら咀嚼音は、人をイライラさせる不快な音で、つまりはノイズとみなされてきたからです。
しかし、いまの時代、そうしたノイズを気持ちいいと感じる、むしろ、わざわざ自分から能動的に聴く人たちが出現し始めています。寝る前やお腹が空いて落ち着かないときに咀嚼音を視聴する、新しい習慣が生まれ始めているのです。
いままでネガティブだったノイズを、ポジティブなイメージとして捉える人々が増えているわけです。こうした人たちが増えてくると、好きな音楽を選ぶように、自分にとって好きなノイズを「選択する」ことが当たり前になってきます。
仕事をしているときに、いままでは好きな音楽を聴いていた人が、実はキッチンの生活音を聴きながらのほうが仕事に集中できるということであれば、それが普通になるでしょう。
先ほど、ASMRには明確な定義はないとお伝えしましたが、これは音を聞いた時の反応や感覚、つまり心地よく感じるレベルに個人差があるからなのです。
例えば、諸説ありますが、人が“心地良い”と感じるかどうかは、「過去の体験に関係がある」とされています。つまり、心地良いという感覚は、個々人のポジティブに感じた過去のシーンや体験、生活スタイルなどに紐付いているのです。
その体験自体がポジティブなものであれば、その時の音は心地良いものになり、ネガティブなものであれば心地良いものではなくなります。
仮に、過去に体験したことのない音でも、「(ポジティブに感じている)〇〇っぽい音だな」と個人が認識すれば、それは心地よい音として受け入れられます (食品メーカーが、ある食べ物を食べる音が何に近い音かを調べた際に、「波の音」に近いという結果が出たそうです)。