「エネルギーを与え、人々を癒す」古くて新しいレストランの役割
ヨーロッパの知性と呼ばれる経済学者ジャック・アタリは、その著書「食の歴史」で壮大な食の人類史を振り返り、食がもたらす社会的な役割に言及している。食事をするということは、人生と自然を分かち合う一つの方法であり、 “食は文化と創造の発展に不可欠なのだ’’と断言する。食事を共にし、くつろぎ、会話することは古代から続く極めて社会的な行為なのだ。
レストランという言葉の原点は16世紀のフランスに遡ると言われている。当時の食堂は、大皿で盛られた料理を見知らぬ同席者とシェアして食べるというスタイルだったが、1765年にあるパリの店が一人前ずつ好きなものを注文できるという新しいシステムを生み出した。そしてレストレ(Restaurer)というスープを提供し始めた。
これは体調がすぐれない人にエネルギーを与える栄養価の高いもので「回復させる」という意味を持つ名前を名付けたのだった。このスープを出す店が広がり、やがてレストラトゥール、今のレストランの語源となる。
フランスでロックダウン中に振舞われたテイクアウト用のスープ。レストランの語源には深い学びがある (GettyImages)
ここに2つの学びがある。レストランの始まりは、気兼ねなく、食事を味わう顧客のための新しい仕組みを提供するというイノベーションだったということ、そしてその原点は人を癒すという価値の提供だったということだ。その後、1789年のフランス革命後に貴族の宿に雇われていた料理人が仕事を失い、次々に街にレストランを立ち上げたことがフランスの美食文化を確立した土台となった。失うことで、返って繁栄することもある。
いま世界が向かうレストラン再開は大きな障壁に阻まれているかに思える。果たして新型コロナ以後の世界に不要な存在となってしまうのか。その問いには明確に「ノー」と答えたい。
近年、レストランは単に食事を提供する場としてだけでなく、社会的なコミュニティとしての役割が高まっている。世界で起こっている変革は明らかだ。地域の小規模な生産者の支援、障害者など社会的弱者の雇用機会の創出、サステナブルなフードテクノロジーの研究や教育の場の提供、貧困対策や食糧廃棄へのソリューション、医療など地域サービスとの連携など、今までにない価値を創出している社会的なプラットフォームとしてのレストランが、欧米だけでなく南米にもオーストラリアにもアジアにも台頭し始めている。
そして美食家といわれる人たちの価値基準にも、いかにそのレストランが「地域全体のサステナビリティに貢献しているか」という新たな評価軸が加わってきた。