地域の人々に「癒し」を提供する屋外ワインバー
イノベーティブな一部のレストランを中心に何年も前から始まっていたこの動きは、近年では日本でもローカルガストロノミーなど徐々に注目されてきた。本来ならばこのようなサステナブル重視や食と自然との関係性を考える動きは数年かけて広がり定着していくような変化だと思われるが、コロナによって急速にこの転換が進むという見方が強まっている。
おそらく、今回の荒波を乗り越えるのは、食べることプラスアルファの魅力を提供し、コミュニティとしてのエコシステムを従業員や顧客や地域と形成できている店だろう。
例えばつい最近コペンハーゲンの食文化を代表する世界的レストラン「noma」が打ち出したのは、予約なしで気軽に立ち寄れる屋外ワインバーだ。オーナーシェフのレネは再開のファーストステップは地域の誰にでも開かれた場にしたいと発信した。そして「みんなが癒される必要がある」と呼びかけた。
地域社会に貢献するnomaの屋外ワインバー。解放的な雰囲気に心も体も癒される
この世界的なstay homeを体験した後で、誰かと外で食事をするという行為が今まで以上に特別なことだと感じるようになったのは間違いない。食べることは命に関わり、自分の肉体の癒しである。そこには食の安心安全など人類共通の価値が望まれるが、食が与える精神的・社会的・環境的な癒しの感じ方は人によって様々だ。
今こそ「レストランとはこうあるべき」という概念(場所、サービスや時間、課金の仕方など)に捉われず、「癒やし」を軸に医療や福祉や教育、アーティストなど異分野の様々なプレイヤーと連携し、食の提供の内容やあり方を自由に考えてみてはどうだろうか。
今までの価値観から転換するのは生易しいことではないが、どんな著名なシェフでも先を見通しているわけではない。誰もがこの新しい世界でもがき、今できる最善と思えることに取り組んでいる。外食産業全体が世界的に変革するとしたら今が最大のチャンスだ。
体にも環境にも良くない食事を大量に作って廃棄し、働く人を経済的に疲弊させるような古いシステムは過去に置いて前に進む時だ。人を癒す場として、そして地域や地球をも癒すことができるレストランという本質的な価値の創造に向け、レストランという産業が社会と生命を支える重要なソーシャルインフラとして世界に新たな扉を開くと信じていたい。
イタリア発「サステナブルな衣食住遊イノベーション」
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