前編で紹介した「政府支出に財源の制約はない」と主張するMMTに依拠するならば、コロナ収束後の経済政策の可能性も広がることになるが、具体的にどのような政策が可能になるのだろうか。グリーンニューディールは、ポストコロナの経済対策として注目されるものの一つだ。
グリーンニューディール論争 アメリカ最年少女性下院議員が活躍
グリーンニューディールとは、気候変動と経済的不平等の両方に対処することを目的として提唱された経済刺激策のことを意味する。1929年の大恐慌からアメリカ経済の救済を図ったフランクリン・D・ルーズベルトの経済的アプローチと、再生可能エネルギーや資源効率などの現代的アイデアを組み合わせた政策だ。自然エネルギーや地球温暖化対策に公共投資することで、新たな雇用や経済成長を生み出すことが狙いとなる。
グリーンニューディールという言葉自体は、2007年、トーマス・フリードマンによって既にニューヨークタイムズ紙のコラムで提唱されていた。多くの新しい「グリーンジョブ」によって経済停滞を乗り越えようとする彼の提案は、リーマンショック後のオバマ前大統領にも影響を与えた。
近年この政策を再び議論の中心に据えたのは、アメリカ最年少女性下院議員としても注目される民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスである。
彼女がエド・マーキー民主党上院議員と共に2019年2月に発表したグリーンニューディールの決議案の主張は、例えば以下のようなものである。
・温室効果ガスの実質排出ゼロ
・電力の100%再生可能エネルギー化
・炭素税を含むカーボンプライシング(炭素価格付け)
・労働者の最低賃金保障
・すべての人への医療保険(ヘルスケア)
オカシオ=コルテスは、これらを10年以内に達成するという目標を掲げている。温暖化対策とともに、気候変動の被害を被る人々や、エネルギー政策の転換により失業する労働者への支援策も盛り込み、国民の完全雇用や国民皆保険を通じた貧困層への対策を同時に充実させる。気候変動への対処を社会保障と一体的な問題として捉えようと試みるのがグリーンニューディールのポイントだ。
グリーンニューディール決議案は非常に意欲的な内容であるため、共和党陣営からの批判も多い。確かに地球温暖化には緊急の対策が必要だが、グリーンニューディールには年平均1.6兆ドルもの費用がかかる。巨額な財源をどう手当てするのかという点について、オカシオ=コルテスの念頭にMMTがあることは間違いないが、保守的な論客を中心に、この点については「非現実的だ」という見方も多い。
巨額な財源が必要であるだけでなく、左派的な政策を集約させるような論点になっている以上、古典的自由主義の伝統が強いアメリカでは、「大きな政府」に対する反感を呼び起こしやすいのは間違いない。実際にトランプ大統領は、グリーンニューディールを「社会主義」と呼んで批判している。
共和党議員のマット・ガエツは、「グリーンニューディール」をもじった「グリーンリアルディール」を対案として発表している。同政策案はグリーンニューディールのラディカルな主張を修正し、より保守的なものに再考案したものだという。
同氏の掲げたロゴには「Green New Deal」のロゴのパロディが採用され、「New」がバツ印で消され、代わりに子ども向けの書籍に用いられる書体で「Real」の文字が記されている。しばしば「非現実的」と批判される「Green New Deal」への皮肉が込められているようだ。