この動画は、CBSが2009年に放送したテレビ番組「60 Minutes」のワンシーンに若干の編集が加えられたものだ。番組の中でバーナンキ元議長は前後の部分を以下のように述べていた。
「いえ、税金ではありません。今回救済された銀行は、ちょうどあなたが市中銀行に口座を持っているのと同じような感じで、FRBに口座を持っています。だから銀行に融資するために行うことは、彼らのFRBの口座をコンピューターを使って操作するだけです。それは借りるというよりも、お金を印刷することにはるかに似ています」
バーナンキ元議長によれば、リーマンショック時のFRBの1兆ドルの銀行救済策の財源は、「コンピューターを使って口座を操作する」ことによって贖われた。「無からの創造」のような話だが現実の出来事である。
議会がFRBに支出を指示をするならば、コンピューターのキーボードを叩くだけでお金を生み出せるという事実は、「キーストロークマネー」と呼ばれている。MMT(現代貨幣理論)の提唱者として知られるランダル・レイは『MMT現代貨幣理論』(島倉原監訳、鈴木正穂訳、東洋経済新報社)のなかで、バーナンキ元議長の同じエピソードを引用している。
「政府はキーストローク、つまりバランスシートへの電子的な記帳行うことで支出する。そうするための能力に、技術的なあるいはオペレーション上の限界はない。キーボードのキーがある限り、政府がそれを叩きさえすれば、利払い資金が生み出されてバランスシートに書き込まれる」
もし「バランスシートへの電子的な記帳を行う」ことで政府支出がなされるのだとすれば、「経済対策の財源をどこに求めるか」ということはそもそも問題になり得ない。4月17日に英紙ガーディアンに掲載された「新型コロナウイルスが打ち砕いた財政赤字という神話」の中で、彼は次のように述べている。
「この緊急経済対策で用いた額をどのように支払うのかを真剣に問う者など誰もいないし、もしいたとしても、問うべきではない。連邦政府が財政支出に用いた『代金を支払う』必要があるという神話を論破するには、世界的なパンデミックが必要だった」
コロナウイルスの影響で閑散とするウォールストリート(Getty Images)
一般的には、どんな政策を実行するのにも財源の裏付けが必要だと強く思い込まされてきたし、財源とは税収や国債によって賄われるものであり、借金が膨らみ過ぎると財政破綻のリスクが増すと言われてきた。しかし、MMT派はこの発想自体が誤りだと強調する。
駒澤大学経済学部准教授で経済学者の井上智洋が『MMT 現代貨幣理論とは何か』(講談社)のなかで指摘するところによれば、「自国通貨建てで借金をしている国が財政破綻することはない」ということは、主流派経済学者であっても受け入れざるを得ない事実だという。