キャリア・教育

2015.04.15 14:53

なぜ、勝ち続ける企業はみな「二兎追い戦略」なのか[世界の権威に聞く「最新・企業経営論」]


例えばコグニザントは、アウトソーシングから企業向けソフトウエア販売まで、新事業を次々と起こし、「一時的競争優位」の小波に乗り続けることで大きな成功をつかんだ。

「既存の事業が順調でも、テクノロジーの変化で需要も変わる」ため、波状的優位を重ねていくことがカギなのだ。

「アウトライヤー企業は、今やっていることが将来の成長につながる保証はないことを認識している」

先の見えない熾烈な企業環境でも、一時的優位を続ければ、企業は成長できる。「企業が『成長の壁』にぶつかるのは不可避だ、という考えは合理的でない」。アップルのクックCEOは最近、そう発言したが、同教授も同意見だ。

アウトライヤー企業には、意外な共通点がある。一見、矛盾するようだが、安定重視とイノベーションという「二兎追い戦略」を実行している点だ。この2つの絶妙な組み合わせにより、他社がうらやむような安定した成長を続けることができる。

企業の価値観や戦略など、核となる事柄には、社員が不安を感じないよう「安定」が必要である。

一方、難しい問題への対処や新たなチャレンジ、業界を超えた新事業など、「ダイナミズム」も欠かせない。だが、大半の企業は、安定を追い求めすぎて硬直化するか、逆に多くのことを試しすぎて持続不可能になるかのどちらかだ。

「2つの面を融合させるのが難しい。だが、うまくいけば、長期的な成功が見込める」

革新的な戦略として重要なのは、早期の小規模投資と事業ポートフォリオの分散化や、積極的な小規模買収、速さと柔軟性を促進するシステム、イノベーションが日々の業務に統合されている点だ。

一方、安定重視面で真っ先に挙げられるのが、社風や価値観の共有に重きを置くことだ。

「CEOの書簡やインタビューを見れば、常に同じ価値観や社風に言及していることがわかる」

また、売却や大規模な分割などは避け、人材育成など、核となる戦略を急に変えることもない。優秀な人材の確保にも全力を尽くす。有能な社員をキープすることは、「次世代の競争優位」を保証してくれるからだ。

アウトライヤー企業の多くは、信頼できる顧客と強固な関係を築くことにもたけている。例えば、インフォシスは、ビジネスの97%が既存の顧客を相手にしたものだ。

上層部の指導層が安定している点も見逃せない。アウトライヤー企業のCEOには、雑誌の表紙を飾ったり、高級車を乗り回したりするような自意識過剰とは無縁の控えめな人が多いという。

こうした数々の共通項に実践すべき優先順位はあるのか。マグレイス教授の話では、アウトライヤー企業は、これらすべてが一つになることで成功しているため、どれが最も大切かなどの優劣はない。
次ページ > 日本の代表企業は富士フイルム

文=肥田美佐子(ニューヨーク在住ジャーナリスト)/イラスト=ベルンド・シッファカーデッカー

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事