パンデミック後の世界と日本の資本主義を考える


──「政治的資本主義は、自由主義の挑戦をはねのけるために高い成長率を達成し続けなければならない」と、あなたは書いています。

そうだ。さもないと、システムが危機に陥りかねない。政治的資本主義にとっては、高成長を絶やさないことが大きな必要要件であり、それがひとたび止まれば、何もかもが不安定化する。政治的柔軟性がないシステムだからだ。

一方、自由主義的資本主義の強みは、民主主義や、民主主義に基づく決定、自由といったものだ。翻って弱点は、何かを決定する際、株主など、大勢の人の賛意が必要になるため、進行に著しい遅れが生じ、成長の足かせになりうることだ。

例えば、空港などのインフラ計画では、土地の所有者や環境について案ずる市民など、多くの人たちとの交渉が必要だ。そのせいで進行が大幅に遅延すれば、政治的資本主義のような高い成長率を達成できない可能性もある。

──新型コロナウイルスの感染拡大で、世界が未曾有の経済危機や物理的な分断に陥っています。このパンデミック以前と以後では、世界経済のシステムや枠組み、各国の関係は変わると思いますか。

この急激な感染拡大ペースはハイパーインフレさながらだが、今秋までに収束すれば、グローバル化に大きな影響が及ぶとは思わない。 だが、1年以上、渡航やモノの輸送に支障が生じ続ければ、グローバル・バリューチェーンがほころび、デカップリング(分断)が起こり、グローバル化に甚大な影響が及ぶ。

世界は一変した。戦争でも、ここまで急激な変化は起こらない。モノの輸送だけでなく、生産管理に必要な人の移動も制限されている。 グローバル化により、他国での生産を遠隔管理できるようになり、資本の所有者は、資本の近くにいる必要がなくなった。とはいえ、(入国制限など)世界が国境で分断されている状態が長く続けば、グローバル化のシステム全体に大きな影響が出る。資本が、安全な避難先を求めて国内回帰してしまう。

余暇と生産時間の境界が曖昧に


──あなたは「資本主義から脱却し、もっと余暇を増やせば、世界はより良くなるというアイデアは合理的のように聞こえるが、結局は間違ったものだ」と書いています。なぜ悪いアイデアなのでしょう?

資本主義システムからの脱却は不可能だ。米国のアーミッシュのように、独自のコミュニティーで生きることもできるが、社会の主流から外れてしまう(注:アーミッシュは、電気や車などを使わず、自給自足の生活を送るキリスト教徒の一派)。パンデミック下では孤立して生活するほうが健康と安全を確保できるが、収束後は社会から取り残される。

自分の収入や収益を気にかけるという意味で、いまや誰もが小型の資本主義マシンと化しつつある。それに対し、人々がもっと団結して協力し合えば、そうした資本主義的行動が変わりうるという考え方もあるが、現実的ではない。広く行き渡っているイデオロギーに背を向けると周縁化してしまう。
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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=ポール・ライディン

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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