スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する

スウェーデン ストックホルムのレストラン。4月25日土曜日夜の様子(Shutterstock)


6. 日本と比較して


久山:日本はスウェーデンと比べて人口も人口密度も多いのに、感染者や死亡者はかなり低く抑えられていますよね。それはなぜでしょうか。

宮川:諸外国と日本の感染者数・死亡者数の差は、政策の差としては説明しきれないものがあるように思います。感染性の人種差や疫学的バックグラウンド、衛生観念など、日本が有利となっている何かしらの原因があるのではないでしょうか。

新型コロナ政策を比べてみると、スウェーデンと日本の大きな違いは学校が休校しているかどうかという点だけだ思います。スウェーデンは学校を閉めていませんが、少なくともそれがマイナスには作用していないようです。ただ、日本のほうが多世代同居が多いので、子供が学校からウイルスを持ち帰り祖父母に感染するという危険性はありますね。

久山:医療の面ではどうでしょうか。

宮川:スウェーデンでは病院のほとんどが公営であるのに対し、日本は大多数が私立です。また、日本では強力なリーダーシップが欠如しているため、各地方自治体や各医療機関がそれぞれ別々に知恵を絞って対応している状態です。一方でスウェーデンは、日本よりも強力な政府があり、諮問機関としての公衆衛生局、社会庁、学校庁などの専門家グループの意見を元に政策を決定しています。これらの諮問機関は、学術的エビデンスに基づいて方針を打ち出しており、他国に追従することはありません。

久山:確かに、ヨーロッパ諸国からの同調圧力についてはまったく意に介していないように見えます。

宮川:毎日14時に行われる政府合同記者会見では、各諮問機関の代表が出席し、データを提示した上で、データの解釈と方針を発表していますよね。国民はこの元データを常に閲覧することが可能ですし、情報の透明性も非常に高いです。各医療機関は、各機関毎の状況だけでなく、医療圏、あるいは国全体の状況を反映させて、患者や資源の移動を含めて国全体の医療機関が協力して対応しています。新型コロナ患者の入院治療に当たる病院はほとんどが公立の大病院で、新型コロナ以外の治療を新型コロナ診療を行わない病院に移動させるという対策も取っています。

エビデンスに支えられていること、強くブレないリーダーシップが存在すること、さらには情報の透明性、国全体としての協力体制があること、これがスウェーデンの強みなのではないでしょうか。


宮川絢子(みやかわあやこ)◎スウェーデン・カロリンスカ大学病院・泌尿器外科勤務。平成元年慶應義塾大学医学部卒業。日本泌尿器科学会専門医、医学博士、カロリンスカ大学およびケンブリッジ大学でポスドク。2007年スウェーデン移住。スウェーデン人の夫との間に男女の双子がいる。


久山葉子(くやまようこ)◎スウェーデン語文学翻訳者、エッセイスト。 高校時代に1年間AFSでスウェーデンに留学。東京のスウェーデン大使館商務部勤務を経て、2010年に日本人家族3人でスウェーデンに移住。現地の高校で日本語を教えている。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』、訳書多数。

文=宮川絢子・久山葉子 (編集=石井節子)

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