法律から環境条件まで瞬時に分析 オーナーを儲けさせる「建築AI」

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「Land Book」という人工知能(AI)ベースのサービスがある。スペースウォークという韓国企業が開発した、「土地開発事業妥当性分析プラットフォーム」だ。少し名称が長いのだが、その機能を要約すると一種の「建築・設計AI」と言い換えることができる。

例えば、土地のオーナーが賃貸収入を得るため、マンションなど建築物を建てるとしよう。そこでLand Bookは、価格・人口・交通・位置・法律など、対象となる土地にまつわるさまざまな条件、また建物の形や建設費用などのデータを収集・分析し、オーナーに最も収益が還元されうる建築物の空間設計を、瞬時にシミュレーションしてくれる。

同社の説明によれば、韓国国内には3800万の筆地(区画された土地の単位)があるが、その最適な組み合わせを考慮した設計案のパターンは、天文学的な数にのぼるという。また、建築関連の法律は毎年20以上、しかも何度も変更され、収益性の分析はそのたびに困難に陥ると説明している。

情報やデータのアップデートがしきりに行われるなかで、人間の建築士がキャッチアップし、捻りだせる空間設計のパターンには限界がある。オーナーにとっては、無数の情報を一瞬で分析して、多くの選択肢を提案してくれる建築・設計AIは心強い味方となろう。

「日本では法律など建築条件を調べることは業界用語で『ボリューム』と言います。そこから基本を固める作業を『基本設計』もしくは『マスタープラン』などとも呼びます。Land Bookはそのふたつの工程を自動化するイメージでしょうか。なおボリュームだけでも、人手でやると2~3日はかかってしまうことが普通です」(日本の不動産開発関係者L氏)

ところで、一般的に建築と言われてまず思い浮かぶのは「デザイン」ではないだろうか。他の業種・産業と同様に、いつかは人間の感性に訴えるデザインを提案する建築AIが登場するはずだ。実際、Land Bookもデザイン性に“多少”気を使った提案を行うという。しかしまず先に、収益や投資効率にフォーカスがあてたという点は非常に興味深い。

スペースウォークの関係者はその点について、AIは「デザインの良し悪しを判断できない」が、与えられた条件の中で最良の設計計画を発見することはできるとしている。技術動向などを考えた際、AIとは何か、また人間とAIの関係を理解した上で確立されたユースケース、AIビジネスのひとつと言えそうだ。

日本においても今後、収益効果を最大化する建築・設計AIの需要は増えるかもしれない。資産形成や投資の裾野はより広がっていく中で、AIをパートナーとしても求める人は増えるはずだ。

加えて、建築士は資格や専門知識が必要となる“狭き門”だ。建築関係者は、「優秀な建築士となればさらに一握り。設計の分野もマンション、商業施設などなど細分化している」という。人材不足を補ったり、建築士の作業を効率化するパートナーとしても活用されていくはずだ。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河 鐘基

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