WHOは誰のため? 台湾の若者はなぜNYタイムズに広告を出したのか

左=蔡英文、右=テドロス事務局長(Getty Images)


台湾の若い世代の存在感に世界が注目


2014年3月、当時の馬英九政権が台湾のサービス業界への中国企業の参入を認める法案を無理やり通そうと試みたことから、「ひまわり学生運動」と呼ばれる大規模な反対運動が起きたことは未だ記憶に新しいが、台湾の民主と自由を重視する若い世代の存在感は、ここのところ以前にも増して大きくなっている。


2014年の「ひまわり学生運動」の様子(Getty Images)

現与党の民進党・蔡英文を囲むメンバーの若さはその証拠だ。台湾のデジタル担当政務委員のオードリー・タン(38)や、「ひまわり学生運動」のリーダーで、今は民進党の副秘書長のリン・ヒハン(31)などがその良い例だろう。

冒頭で紹介した広告キャンペーンの発起人の一人レイ・ドゥ(30)も、台湾で勢いのある若者の一人だ。彼が2015年から運営している「阿滴英文」はチャンネル登録者数 257万人、台湾のトップユーチューバーといっても過言ではないだろう。YouTubeを用いた英語レッスン動画が台湾人に好評で、過去にマスメディアにも数多く取り上げられている。

しかし、そんなYouTuberの彼が、なぜ今回のキャンペーンの発起人に名乗り出たのであろうか。実は新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し始めた2月1日の時点で、過去にSARS流行を経験した台湾の人たちが抱く思いを世界に知ってもらうべく、「An open letter to the World Health Organization」というタイトルの動画を公開しており、その中で台湾がWHOについて加入する意義について語っていたのであった。



「病気には国境がない。台湾のWHO加入は、私たちにとって重要というだけでなく、他の国々にとっても意味のあることだと思います。世界中の国が一丸となることが、全人類の健康や福祉を守る唯一の手段であると信じています」

「2003年に台湾でSARSが大流行した際、台湾では73人が命を失いました。もしあのとき台湾がWHOに参加していたら、ウイルスに対するより深い理解がもたらされ、もしかしたら、より多くの命が救われるようなことだってあったかもしれません。しかし私たちは皆様に同情して欲しいわけではありません。そうではなくて、『台湾は力になれる』ということを世界中の人に知って欲しいのです」

結果的にこの新型コロナウイルスの混乱の中で、「台湾は力になれる」ということを世界中の人々が知ることになった。

世界中が対応に戸惑う中、最も早期かつ迅速に対応を始めたリーダーの一人が、台湾の蔡英文総統だった。蔡総統は、新型コロナウイルス流行の兆しが見え始めた1月から、感染拡大防止に向けた124の措置を発表し、結果的に他の国々で取られたようなロックダウンを回避した。CNNテレビは、蔡総統の対策を「世界で最も優れたものの一つ」と紹介している。

また、「マスク不足」対応で世界が注目することとなった台湾女性IT大臣、オードリー・タンは、現在東京都のコロナ対策サイトにも改善提案をしているという。台湾はいま、世界から最も信頼されていると言っても過言ではないだろう。新型コロナ対策で世界から後れを取る日本においても、台湾のITを活用した政策から学ぶことは多い。

「病気には国境がない」。感染拡大が容易に国境を超えていってしまう現在の事態でこそ、過去の政治的な分断を超えて「連帯を選ぶ」ときなのではないだろうか。

文=渡邊雄介

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