このプロジェクトは、必要な許可を得るのに10年もかかった末に、ようやく建設工事がスタートした。2025年完了予定の第一期の風力タービン設置に向け、約153kmの道路工事や、風力タービンの設置地点115カ所の整備が始まっている。
アンシュッツは、初期費用4億ドルをポケットマネーから拠出したが、残りは出資者を募りたいと考えている。とはいえ、アンシュッツがこのプロジェクトの支配権を放棄することはないだろう。彼は自ら「自分でプロジェクトの指揮を執りたい」と言っているのだ。
ところで、アンシュッツが風力発電に熱心なのは、環境保護への取り組みを世間にアピールするためなのだろうか。彼は、きっぱりとこう言う。
「それは違う。金もうけのためですよ」
大気中への過剰な二酸化炭素の排出は確かに問題ではあるが、一部の人が思うほど深刻な状況ではないというのがアンシュッツの考えだ。カリフォルニア州で成立した「2045年までに州内の電力を100%再生可能エネルギーに転換する」という法律についてもいき過ぎだと思っているが、彼はこの法律を逆手にとって利益を得ようというのだ。
このプロジェクトで最も厄介な作業である許認可の手続きはすでに完了している。申請の4分の1に認可が下り、157基のタービンが最も風の強い場所に設置されることになった。
一度だけ、アンシュッツは建設予定地を売却してプロジェクトから撤退しようと思ったことがある。ワイオミング州議会で石炭産業擁護派が、全風力発電に1kWhあたり0.1セントの税金を課すという全米初の法案を可決させたときだ。年間発電量120億kWhのともなれば納税額はかなりの額に上る。
しかしこの件は、プロジェクトの許認可手続きが長引いたおかげで、難を免れた。ここ10年で風力タービンが大型化し、パワーや発電効率も向上。投資アドバイザリーサービスを提供する「ラザード」によれば、風力発電所の総発電コストは10年前の1kWhあたり13.5セントから4.3セントにまで縮小している。運転開始から10年間の連邦政府による再生可能エネルギー投資への発電税額控除が適用されれば、アンシュッツの発電コストは1kWhあたり2〜3セントに抑えられるはずだ。
現在、カリフォルニア州の電力は再生可能エネルギーが全体の3分の1、化石燃料が40%となっている。風力発電は11%を占め、1kWhあたり3セント(米エネルギー省調べ)が支払われている。アンシュッツは風力発電の今後について、税額控除期間が終了し、カリフォルニア州の電力を100%再生可能エネルギーに転換するという目標期日である45年が近くなれば、風力発電の価格は上昇するとみている。