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2020.04.20 07:30

事故もカネに変える「石油ビリオネア」が風力発電に人生を懸ける本当の理由

フィリップ・アンシュッツ

化石燃料ビジネスで財を成したビリオネア、フィリップ・アンシュッツ。80歳を前に最後の大勝負に選んだのは、大規模な風力発電基地の建設だった。アメリカを代表する石油王が、なぜいま再生可能エネルギーに参入するのだろうか。


フィリップ・アンシュッツが、60年におよぶキャリアで経営した事業は油田、鉄道、光ファイバー網、映画館、そしてパンケーキメーカーと多岐にわたる。

アンシュッツは、NHL「LAキングス」のオーナーで、NBA「LAレイカーズ」の株式の3分の1近くを保有し、両チームの本拠地であるステイプルズ・センターを所有する億万長者だ。また彼は野外音楽イベント「コーチェラ・フェスティバル」を主催し、ロンドンの「O2アリーナ」や、コロラドスプリングスではホテル「ザ・ブロードムーア」を経営している。

映画『ナルニア国物語』に出資したのも、マイケル・ジャクソンの急死で中止になったカムバックツアーを企画していたのも、アンシュッツがオーナーを務めるエンターテインメント会社だ。彼のビジネスへの熱中ぶりは、大好きというレベルを通り越して、取り憑かれていると言っていいほど。

アンシュッツは自身のキャリアの出発点である石油に特別な思い入れを持っている。彼を「フォーブス400」番付で41位にランクインさせた推定115億ドル(約1兆2500万円)の資産の礎になっているのも、化石燃料なのだ。

アンシュッツの石油会社はワイオミングのパウダーリバー盆地で水圧破砕法による掘削を行っており、約2000km2の土地に10億バレルを超える原油が眠っていると考えている。彼はここで、2010年に別の油田を売却して得た25億ドルを上回る大金を手にする可能性があるのだ。この油田の最大の利点は大手石油会社が保有する油田の地層と重なっていることにある。アンシュッツは葉巻をもったままの指を重ね合わせながら説明し、そうした石油会社が彼の油田を欲しがるはずだと話した。

最後の投資先に「石油」はあり得ない!?


79歳のアンシュッツは油田作業員のような粗野なタイプではない。身長175cmのスリムな体形で、髪を整え、往時のアメリカ映画の名優のような落ち着いた雰囲気を漂わせている。その彼が次の、おそらく彼にとって最後の大きな投資が「石油」になることは「絶対にない」と断言する。化石燃料の王様、フィリップ・アンシュッツが現在計画しているのは、なんと全米最大の風力発電基地の建設なのだ。

現在進行中のチョークチェリー/シエラマドレ風力発電プロジェクトでは、ワイオミング州ローリンズ近くにある広さ約1300km2の牧場に50億ドルかけて1000基のタービンを設置する計画だ。さらに30億ドルかけて約1200kmの直流送電線を敷設することで180万世帯の電力を賄えるようになり、カリフォルニア州の電力網への供給も可能になる。
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文=クリストファー・ヘルマン 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=岡本富士子/パラ・アルタ 編集=森裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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