さらに、店舗への入店者数の制限も開始している。ウォルマートでは3月下旬、COVID-19に感染したシカゴの店舗従業員2人が死亡しており、それが同社の方針に影響を与えたことは間違いない。だが、こうした対策を講じてきた同社は、その他の小売各社が倣うべき手本だ。
競合他社の多くは、顧客と従業員、株主のニーズのバランスを取るというほぼ実現不可能なトラップから抜け出せずにいる。だが、ウォルマートはそうした歴史的に重要とされてきた“命名規則”を脇に置き、代わりに一つの重要なグループ、これら三者をひとつにまとめた「コミュニティー」に焦点を当てている。
そして、同社はこの「コミュニティー・ファースト」のアプローチを取ることにより、米国に対し、すべての人がともにCOVID-19と戦っており、顧客と従業員、株主はすべて、等しく重要な位置づけにあるということを明確に示している。自社の長期的な成功は、自らが事業を行うコミュニティーが繁栄してこそ可能だということを理解しているのだ。
同社のこの取り組みに対する態度は、先ごろ顧客向けに送られたメールに最も明確にあらわれている。競合他社の多くは、顧客へのメールで積極的に値引きを行い、特定のレシピに必要な材料や自宅で運動するための商品を売り込んでいる。一方で、ウォルマートはシンプルかつ深い意味のあるメールで、それら各社の一歩先を行っている。
そのメールの件名は、「唯一知っておくべきこと:食料品購入は宅配で」。本文は、オンラインショッピングの方法を説明した動画を紹介する内容だ。この動画の再生回数は、すでに140万回を超えている。
それほどの数に上る理由は、このシンプルな件名が、「最も助けを必要としている人を助ける」という危機における米国人の精神の本質を捉えているからだ。
初めてネットで食品を購入する人が急増
COVID-19が流行し始める前まで、食料品の購入における主流は、オンラインサービスの利用ではなかった。現時点でも、それが最も一般的な買い方ではない。小売業者のマイクロ・フルフィルメントセンターの設置を支援する米ファブリック(Fabric)の調査によれば、感染が拡大し始める以前、食料品の購入方法においてオンライン販売が占める割合は、わずか5%にすぎなかった。
だが、COVID-19の流行の影響を受け、初めてオンラインで食料品を購入したという人はここ数週間で急増している。利用経験のある人の割合は、52%に達した。このうち20%が、最近このサービスを初めて利用した人だという。
一方、別の言い方をすれば、米国人の48%はいまだにオンラインで食料品を購入したことがないということになる。消費者が実店舗まで足を運ぶよりオンラインで注文する方が安全だと考えられることからすれば、この結果は警戒すべきものといえる。
同時に2つの目標を実現
ウォルマートがオンラインでの食料品の購入方法をより多くの人たちに知ってもらい、そのサービスの利用を習慣にしてもらおうとしていることは、同社のビジネスに役立つのと同時に、人道的なことでもある。
人道的であり利益も得られる、この2つがそろうというのは、素晴らしいことではないだろうか? 現在のような危機においては、これらを同時に実現することが、食料品販売における倫理基準であるべきだ。
最大のリスクは、人々が食料を手に入れられなくなること、必要な食料を安全に購入できなくなることだ。