「インターネットの父」村井純氏に聞く、幸福な人間社会を実現するテクノロジーのあり方

慶應義塾大学名誉教授 村井純氏


村井:ナショナリズムの集合体である国際社会と、グローバル社会そのものであるインターネット文明が重なり合っている今の地球にとって、日本人の役割は、経済発展とは違った部分にあると思います。日本人は人が困っているときに助ける、地震が起こっても整然と並ぶ。こういう点は世界の誰にも負けません。インターネット文明時代に、日本人は立派な生き方ができる。テクノロジーをアブユーズ(悪用・濫用)するのではなく、エシックス(倫理観)に基づいた「善用」をするのです。

金野:「善用」の一例として、世界に20億人いる銀行口座を持っていない人(アンバンクド)を社会に包摂する動きがあります。低収入で貧しいが、真面目に努力して働いているアンバンクドの人たちを見える化するために、収入や資産に頼らない個人信用評価システムをAIやブロックチェーンの技術を活かして開発しています。アンバンクドの人たちの半数以上は、携帯電話を持っているので、この中の個人データを解析すれば個人評価が可能です。

もちろん個人データの保護は担保した上でアンバンクドの人たちの見える化をすすめることで、世界中から彼らに資金や教育、医療サービスを提供できるようになる。努力している人は報われるし、最低限、飢餓・紛争から逃れられ自立できる。貧困飢餓を先端技術で根絶していくことに、我々は邁進すべきだと思います。それを実現する人材を育成していくことも重要です。

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村井:金野さんの仰るとおりだと思います。銀行の口座を持てない人を、IT技術によって、金融的に社会に包摂する。インターネットを作っている我々にとって誇りであるし、ぜひ貢献したいですね。

金融包摂の前提となるのは、インターネットでの包摂の推進です。人類の60%がインターネットアクセス可能ですが、残り40%の人類をカバーすることが、今後の私たちの仕事です。

インターネットで人類を100%カバーするためには、低コストでできる技術革新が必要です。地上のインフラ以外に衛星や、グーグルのプロジェクト・ルーン(気球を用いた移動体通信システム)など、安くて瞬時にアクセスできる技術が、貧困地域包摂において不可欠です。この分野は競争領域になっており、チャンスがあります。ここはソーラーパネルや軽量バッテリーなどの技術を持つ日本企業の出番です。世界中のインターネットを包摂する、これが日本の進むべき領域です。

さらに重要なのは、医療と教育です。この領域と、ネット・金融がグローバルにつながった時に全く違う力を持つと思うのです。例として、貧困地域では、高額な医療薬は処方されないから子供の死亡率が高い。貧困でなければ死なずに済むのだから、その薬・医療を施せるシステムはどうやったらできるのか。地球全体で考えたらできることは多いと思います。

そういった人々を見える化することで、彼らが資金調達でき、健康的に生活でき、経済活動に参加可能になる。医療や教育でこうした大きなエコシステムを作ることができるはずです。
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文=金野索一

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