村井氏は1980年代に国内の大学を結ぶ日本で初めてネットワーク通信網「JUNET」を設立。88年にはインターネット研究コンソーシアム「WIDEプロジェクト」を立ち上げ、「インターネット前提社会」の構築に寄与した人物である。
村井氏によると、インターネットは歴史上初めて人類共通の文明をもたらしたという。こうした「インターネット文明」の発展は、金融危機を招いたマネー資本主義を変革させる好機でもあると私は考える。村井氏に、幸福な人間社会を実現するテクノロジーのあり方を聞いた。
金野:村井さんが唱えている「インターネット前提社会」では、どんなことが起きているのでしょうか。人間はインターネットによって何を得ているのでしょうか。
村井:人間はこれまでの文明で培われた数学を使い、コンピューターやソフトウェアを作り、それらを道具として使い、新しい社会を創造しました。インターネット文明を作り上げることに成功したと言えますね。
金野:そのインターネットが、IT産業やビジネスの領域を越え、デジタルトランスフォーメーションという革命を起こしている。インターネットが人間と社会の課題を解決するのは、必然的な流れだということでしょうか。
村井:例えば、過去の文明で作った道具である乗り物を、インターネットによって進化させたのが自動運転車ですよね。このように、今後は政治やエネルギー、医療などさまざま分野で、インターネットが地球全体のシステムを変えようとしているのです。
金野:ところが、インターネットのテクノロジーは、必ずしも良い使われ方をしていません。AIやロボットの技術は軍事ビジネスに利用されているし、ビッグデータビジネスは個人情報の軽視を招いています。これらの分野はアメリカのGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が先行しています。
しかし日本の往くべき道は、人類の課題解決に技術を活かしていくことではないかと思うのです。そのためには、日本は技術力や商品力を磨く前に、メンタリティや発想、グローバル社会との関わり方から変えていくべきではないかと思うのです。