昨秋、『危機と人類』(日本経済新聞出版社)を上梓した同氏に、日本や世界が直面する危機について聞いた。
──『危機と人類』では、日米など7カ国が危機を克服した事例や現在直面している危機が論じられています。中国の台頭で世界のパワーバランスが変化し、安全保障の再考を迫られていますが、それを念頭に執筆されたのですか。
違う。同書では近代日本に1章を割き、日本が「選択的変化」で危機を乗り越えた秀逸な例として、明治時代を取り上げた。現在、日本が抱える危機についても1章を割いた。中国は取り上げていない。
国家の政治的危機というテーマには長年、関心を持っていた。本で取り上げたドイツやオーストラリアなど、私がかつて住んだ国々は、いずれも危機を抱えていた。一方、米国は現在、危機に陥るリスクにさらされている。
第1章では個人的・国家的危機の帰結を左右する要因を挙げたが、臨床心理学者の妻が、個人的危機に立ち向かう人々を支援する仕事に就いていたことも執筆動機になった。こうした個人と国家の危機に対する関心から、同書を書いた。
──あなたは世界危機として、「核兵器の使用」「世界的な気候変動」「世界的な資源枯渇」「世界的な生活水準における格差の拡大」を挙げています。敵国政府の対応を見誤るという「計算ミス」が、意図せぬ核兵器の非奇襲攻撃を招くリスクも指摘しています。不確実な時代にあって、指導者に求められるものは?
計算ミスを防ぐには、相手国と頻繁に対話し、相互理解と信頼を深めることだ。本でも書いたが、(1962年、ソ連が米政府を軽く見てキューバにミサイルを配備し)核戦争寸前までいったキューバ危機後の米ソが好例だ。両国は同事件から教訓を得て、相手国が何を考えているのかを知るべく、危機後、対話を絶やさないように努め、成功した。
だが、91年のソビエト連邦崩壊で、逆に米ロ関係の危険度が増した。米政府はロシアのリスクを軽んじ、定期的な対話を怠るようになった。その結果、核戦争のリスクはキューバ危機以来、最大になっている。最も大切なことは、敵国と常に対話し、互いを攻撃し合わないという確信を深めることだ。トランプ大統領は他国と率直で穏やかな対話を持とうとしないため、意図を読み違えられるリスクがある。他国の動きも予測不可能になり、リスクが高まる。