ニューヨーク州のニューヨーク市の1月の犯罪件数は、去年の2割増しとなったが、後述するように、それは、殺人などの凶悪犯罪が減少したうえでの2割増しで、逆に自動車泥棒のような軽犯罪が7割増しとなったのだ。この7割増という数字は異常値と言ってもよい。
釈放後7時間で3回逮捕
今年に入りニューヨーク州は、暴力を訴因としない犯罪については、それが重罪であったとしても基本的には拘置所に入れず、裁判が終わるまで被疑者の足首に電子モニターをつけるという形で釈放するというように、法律を変えた。
「改正保釈法」と呼ばれるものだが、言い換えれば「保釈強制法」と言ったほうが実態を表しているかもしれない。
これは、お金のあるものが保釈金を積んで釈放されるのに対し、お金のないものは釈放されないのは差別だという、アンドリュー・クオモ知事のリーダーシップでできた改正法だ。また、犯罪増加に対して拘置所や刑務所の施設拡大が間に合わず、経費も膨大に膨れ上がっていたという背景もある。
ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事(Getty Images)
ところが、改正法が施行された途端、釈放されたばかりの人物がその日のうちにまた新たな犯罪を起こして逮捕されるということが起こった。米メディア「ブレイドバート・ニュース」によれば、ある犯罪者は起訴状に列挙された前科が50ページにもわたるという状況にもかかわらず、釈放後7時間の間に3回逮捕されたという。
被疑者が装着する足首の電子モニターは、拘置所から支給されるものとはいえ、無料ではない。約5万円を初期費用として払い、裁判が始まるまで毎月3万円を払い続けるという仕組みで、その金を稼ぐためにも、また万引きなどの軽犯罪を起こさねばならないというジレンマも指摘されている。
こうなることを予想していたニューヨーク市警察総監は、37年間の警察勤務でやっとトップの座に昇りつめたにもかかわらず、法律が変わる直前に抗議の辞任をしている。記者会見では「新たな職の機会が見つかったから」と本人は言ったが、フォックスニュースは、900人の収監者を一気に釈放するという決定に、堪忍袋の緒を切らして辞任したと報じている。
ニューヨーク市で麻薬事件を専門に起訴しているブリジット・プレナン検事も、この改正法は、裁判官から、保釈可否を判断する重大な裁量権を取り上げたことであり、地域の治安に極めて重大な悪影響を及ぼしていると激しく抗議している。
たとえば、麻薬の密売は暴力犯罪ではないので、逮捕されてもすぐに釈放され、裁判が始まるまで収監されることはない。仮に、その人間が、暴力を伴った殺人やレイプなどの前科があっても、改正法は過去を勘案しないので、恐ろしいことこのうえない。