とはいえ、認知症になった親は、家族のことが誰なのかわからなくなったり、優しかった性格が豹変したり、徘徊して行方不明になったり……と、子どもとしては放っておけない事態になることも。
認知症の親の面倒を見ざるをえなくなると、自分の就労収入の減少と老後の公的年金のダウン、それに親の介護費用の負担という、介護離職のトリプルパンチが待っている。
そこで最近は、親や自身の介護・認知症資金の備え方に関するFP(フィナンシャル・プラン)の相談も増えている。そんなときに話題になるのが、最近にわかに注目されてきた「MCI(エムシーアイ)」という言葉だ。
健常者と認知症の中間的な状態MCI
認知症と診断される人は、増加し続けている。65歳以上で認知症を患っている人は、2012年で約462万人。厚生労働省の推計によると、高齢者全体の15%を占めており、約7人に1人が認知症患者という計算になる。
2025年には約700万人になると推計されており、高齢者の約5人に1人が認知症を罹患するというイメージだ。そうなると、もはや他人事ではなく、誰もがその可能性からは逃れられない。
出典:日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究(2015年)に基づき筆者作成
政府は、「生涯現役社会の実現」を掲げており、現役世代の減少や介護人材の不足、社会保障費の抑制に対応するために、認知症の「予防」促進に努めている。そんななかで注目されているのが「MCI」だ。
MCIとは、「Mild Congnitive Impairment」の略で、日本語で言えば「軽度認知障害」となる。これは健常者と認知症の中間の状態で、本人やその家族から一部の認知機能の低下の訴えはあるものの、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態のことだ。
認知症はある日突然に発症するものではなく、長い年月をかけて徐々に進行していくため、その進行の途中にあるのがMCIとされる。
知っておきたいのは、認知症になってからでは元の状態に戻ることは難しいという点だ。アルツハイマー型認知症だと診断されて治療を開始しても、薬の効果は悪化のスピードを抑える程度で、根本的に治せる薬は存在しない。
ところが、認知症の手前のMCIの段階で早期に適切なケアをすれば、なんと4分の1以上の人が戻るとの報告があり、厚生労働省でもMCIに注目し、研究を進めている状況にある。
つまり、異変に気付いて、MCIの段階で適切なケアができれば、要介護状態になることなく、健康寿命を延ばすことができるかもしれないのだ。介護や認知症に備えて、お金を用意しておくよりも建設的だ。
出典:住友生命「知っておきたい認知症のこと」