──経験ゼロから、どうやってノウハウを学んだ?
クライアントである、出版社の皆さんが育ててくださったのだと思います。実は、レストランPRになった頃も、それ以前も、PRについてきちんと学んだことはなく、素人同然。広報に関する本を貪るように読みながらの、手探りのパブリシティ活動でした。そうやって培ったレストラン広報での人脈も、書籍PRへの転身でまた一からやり直し。業界ルールもわからず不安だらけでしたが、ここでもまた、人の縁に助けられました。
書籍PRとしての初仕事は、鬼塚さんが紹介してくださった、TBSブリタニカ(現CCCメディアハウス)でのもの。とある作品で、担当編集は、小泉伸夫さんでした。この方が、メディアに配布するリリース資料の作り方から、出版業界独自の用語や常識、ルールに至るまで、多くのことを教えてくださったんです。
それまで、本にも旬の作品があることや、書店での展開がいかに大事なのか、そんなこと考えたこともありませんでした。その後も、新しい案件のたびにそれぞれの担当編集の方が横につき、手取り足取り教えてくださったことには、感謝の気持ちしかありません。
──この仕事の醍醐味は?
なんといっても、パブリシティが功を奏し、出版社の編集担当・宣伝・販売の皆さんと、良いチームが作れたとき。何かパブリシティが決まると確認や調整といったやりとりが発生し、チーム内のコミュニケーションが増えます。そうすると、どんどんチーム全体が「この本を売りたい!」という機運で盛り上がり、思ってもみなかった化学反応が生まれることもあるんです。その一端に加われるのは、書籍PRにとって最高の勲章ですね。
今でも印象に残っているのが『ワンダー』(ほるぷ出版)です。文芸作品に、翻訳小説、しかも小説だから絵もないという、パブリシティの見地からすれば分の悪い作品。英語圏で話題となり、映画化も決まっているとのことでしたが、まだ映画の映像は用意されていないという状況でした。ただ、海外の出版社が映画の予告編のような、素晴らしい動画を作っていました。
TVで紹介してもらうには、出せる絵があることが重要になります。これに翻訳を入れてもらい、「大人がはまる児童書」という企画を持ち込んだところ、関西の情報番組で取り上げていただけることに。動画のほかに、リポーターさんに朗読してもらったり、書店員さんの熱烈推薦コメントを紹介したり……。その結果、『ワンダー』はどんどん認知されていきました。