ビジネス

2020.03.10

グーグルCEO単独インタビュー「イノベーションは、日々の経験から生まれる」(後編)

スンダー・ピチャイ グーグル、アルファベットCEO

グーグル、そしてその親会社アルファベットのCEO、スンダー・ピチャイにForbes JAPANは単独インタビューを行った。

インタビューを通じて見えてきたのは、スンダー・ピチャイ自身が人生で得た気づきが、グーグルの在り方に大きく反映されているということだ。記事の前編では、彼が幼少期のインドでの生活で受けた影響や、クローム(グーグルのウェブブラウザ)やアンドロイド(同モバイルOS)の飛躍に繋がった出来事について触れた。

後編では、いまのグーグル、そしてこの先の未来を導くピチャイの信念、哲学に迫る。


2015年、CEOに就任したスンダー・ピチャイはその2年後、グーグルの「AIファースト企業」への転換を宣言した。彼の長期的視点が生まれる背景を見よう。

グーグルにはAI研究をリードしてきたジェフ・ディーンという有名人がいる。「ジェフ・ディーンにまつわる事実」というジョーク集があり、「グラハム・ベルが電話を発明したとき、そこにはすでにジェフからの着信が残っていた」など、彼の天才ぶりをギャグにしたものだ。2012年のある日、ピチャイはジェフの研究室に招かれた。

「そのときのことはよく覚えています。ジェフが見せてくれたのが“猫”の画像でした。私の頭の中で扉が大きく開いた瞬間です」

これが有名な機械学習による「グーグルの猫認識」である。人間に教えられることなく、機械が自ら猫を理解して猫の画像を描き出したのだ。

ピチャイは直感したという。

「これは大きなブレークスルーであり、人間が森羅万象を深く理解するのを助けてくれると思いました。例えば、パターンです。さまざまな事象にはパターンがあり、人間は本質的にそれを知っていますが、AIと協力することでパターンの意味を深く理解できる。病気の発生機序などがそうです」

それから3年が経ち、CEOに就任した頃、ピチャイはGoogleフォトのデモンストレーションを見た。

「hugと検索すると抱擁の写真を表示できるまでになっていて、機械学習が研究の域を出て、問題解決できるレベルにきたと思ったのです。コンピューターは、10年ごとに技術が進化しています。PC、インターネット、モバイルなど10年で変わり、次にAIがユーザーの役に立つ時代が来ると思い、リードしていきたいと思いました」

テクノロジーによる進化を信じる背景には、彼がセットで語る「楽観主義と問題解決」がある。

「04年にグーグルに入社したとき、私は驚きました。私がアイデアを話すと、ふつうは誰もがうまく機能しない理由を分析したがります。ところが、グーグルでは『面白いね!』で始まり、アイデアがうまく回るように助け合う。楽観主義と問題解決の企業文化が存在することに私は感銘を受けたのです」

テクノロジーが問題を起こせば、テクノロジーで解決する。18年、個人データのプライバシー問題について、「プライバシーと安全性をすべての人が得るために」と、フェデレーテッドラーニングという新しい機械学習モデルの手法を発表した。楽観主義は彼のこんな発言にも表れている。

「失敗をしていないのなら努力が足りていません。失敗したとしても、その過程から学ぶべきことがあるのです」
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文=藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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