ビジネス

2020.03.10

グーグルCEO単独インタビュー「イノベーションは、日々の経験から生まれる」(後編)

スンダー・ピチャイ グーグル、アルファベットCEO


組み合わせは、記事前編で触れた「子どもとPC」に始まり、ニューヨーク市消防局とAIチームによる緊急時のスピードアップ、国境なき医師団と画像認識を使った細菌感染の適切な処理、そして社内の部門を超えたコラボレーションに至るまで、「調和が変化を生む」という信念に基づく。

現在、AIやテクノロジーの進化は人間の仕事を奪い、脅かす恐怖の象徴としても語られている。人間の悪意や独善的な欲が入り込めば、殺戮や危害を及ぼす存在になる一方で、ピチャイが語る希望は純粋すぎるほどだ。だが、希望のルーツがインドで両親と体験した人生のなかでの大切な時間であり、その出来事が進化に発展したのは事実である。

インタビュー中、彼はグーグルの東京オフィスで働く視覚障害をもつ女性のことを語った。彼女はGoogleマップのチームと協力して、音声で詳しく道案内をしてくれる機能を開発したという。ピチャイはこう続けた。

「イノベーションとは、日々の経験から生まれるものです。だから、いつでもどこからでもイノベーションは可能なのです」

渋谷にできたスタートアップの拠点も、起業家をヘルプするため、知見の提供を惜しまないという。最後にインドのことを尋ねると、ピチャイは少し照れながらも、こう話すのだった。

「将来、私を育ててくれたインドに帰りたいと思っています。両親から『人生で受けた恩恵は社会に返すべき』と言われて育てられましたからね」

インドへの恩返しも、equilibriumのひとつなのかもしれない。


スンダー・ピチャイ◎1972年、インド・チェンナイ生まれ。インド工科大学を卒業後、スタンフォード大学で修士号。シリコンバレーの半導体メーカーに勤務後、ウォートン校でMBAを取得。マッキンゼー&カンパニーでコンサルタントに。2004年、グーグルに入社して検索ツールバーの仕事からスタートした。読書家で、最近読んだ本に終末期医療を描いた『死すべき定め』(アトゥール・ガワンデ著)がある。家族は妻と一男一女。

文=藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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