ビジネス

2020.03.10

グーグルCEO単独インタビュー「イノベーションは、日々の経験から生まれる」(後編)

スンダー・ピチャイ グーグル、アルファベットCEO


「2年前、AIアシスタントの『Googleアシスタント』を開発するチームの会議で、ヘルプ機能が進化していることに気づきました。このとき、“ヘルプフル”という言葉について定義しようとなったのです。

これまでグーグルの検索機能やヘルプの目的は、ユーザーにとって正解を出すことでした。それをもっと深掘りできないかという話に発展していったのです」

ピチャイたちは、人間が追い求める普遍的な言葉を並べた。知識、成功、健康、幸せ。では、これらを、いつ、どこで、ヘルプできるのか──。

その2年後の19年5月、野外の円形劇場に多くの開発者を集めたI/O’19(グーグルによる開発者向けの年次総会)。ステージに立ったピチャイは聴衆に語りかけた。

「私たちは、答えを見つけることを手助けする会社から、ものごとを成し遂げることを助ける企業に変化しています」

スクリーンには、“Building a more helpful Google for everyone”という標語が打ち出された。「個々の人を力づけられたら、社会全体の便益になる」として、「ヘルプフルは人々の一日を向上させるものだ」と彼は言う。

ピチャイの考えで一貫しているのはあらゆるものとの「組み合わせ」だ。グーグルAI医療ケアチームによる機械学習モデルは、欧州の規制当局の承認を得て、医師らと提携。視力を失う糖尿病の合併症に対する臨床試験を行う。また、早期診断で見逃す確率が高い肺がんも同様だ。医師との協力により、早期発見が可能になる診断方法を確立しようとしている。可能になれば、生存率は40%に上がるという。

一方、前述のジェフ・ディーンらはインド政府と提携した。毎年、モンスーンの季節になると洪水で多くの人が命を失い、親を亡くす子どもたちがいる。そこでインド中央水質委員会の協力を得て、衛星画像などから川の動きをシミュレーションした。洪水のタイミング、場所、激しさをAIで予測し、電話によって住民に避難を呼びかける「パブリックアラート」という製品を開発した。

こうした生命にかかわる連携から、「もっとも大切な人たちと時間を過ごせるように」と、家に早く帰れる道を探すサービスを開発したり、人間とAIが補完し合う。それを彼は、“equilibrium”という言葉で表現した。「平衡」「釣り合い」とともに「心の平静」という意味もある。

「テクノロジーの進化で人間を補完して、体験を拡張できると思います。この陰と陽のバランスが重要だからこそ、私は『AI原則』を書きました」


グーグルのAI原則
1. 社会にとって有益である
2. 不公平なバイアスの発生、助長を防ぐ
3. 安全性確保を念頭においた開発と試験
4. 人々への説明責任
5. プライバシー・デザイン原則の適用
6. 科学的卓越性の探求
7. これらの基本理念に沿った利用への技術提供

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文=藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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