世界に第2、第3のシリコンバレーが生まれないのは上記の「開かれた文化」を十分に備えていなことが主な理由であろう。トランプ大統領の厳格な移民政策は、逆説的に米経済界にその重要性を認識させるきっかけになっている。
アップルCEO、ティム・クックは今年10月、最高裁判所に提出した書類の中で、同社は443人のドリーマーズ(若年層の不法移民)を雇用していることを明かし、共同創業者スティーブ・ジョブスもシリア移民の息子であった事実からも、移民抜きでは同社は存在し得ないと述べている。
毎日徹夜で風呂にも入らず不快な体臭を周囲にまき散らしながら、不安定な状況で熱心に働く移民たちの存在が、米国のイノベーションの強烈なドライブになっていることは疑いようがない。彼らは異なる視点と、アイデアを形にする情熱を持ち、資金・文化の両面でそれを生かすことができる土地に向かう。
興味深いのは、最近ベイエリアの住人たちが異才を生かす文化をいかに生み出し、維持していくかに注目していることだ。シリコンバレーのトップ・ベンチャーキャピタリスト、ベン・ホロウィッツの最新著作『What You Do is Who You Are』でも、企業文化をテーマとし、人種や出身地、キャリア、性別に関係なく「才能」を見つけ、評価する文化をつくることがいかに重要か述べている。
リンクトイン創業者、リード・ホフマンも本誌のインタビューで、日本のビジネス界に対して、競争戦略として「いろいろな場所にさまざまな才能があることを知るべき」と助言したのが印象的だった。報道では分断がクローズアップされているが、米国の強みはカオスと議論から生まれる不調和のエネルギーであり、それはまだまだ衰えを見せない。