堀江愛利(以下、堀江):昨年、『Blitzscaling(ブリッツスケール、未邦訳)』という本を書かれました。シリコンバレーの「良心」と呼ばれ、人々を先導し、モチベートしているホフマンさんですが、「ブリッツスケール」とは何でしょうか。また、なぜそれが今重要だと思われたのでしょうか。
リード・ホフマン(以下、ホフマン):「ブリッツスケール」とは飛躍的な事業拡大を指します。ここ10年で劇的に成長したシリコンバレーの世界的テクノロジー企業がその成長から学んだことです。現在、世界はあらゆるものが複雑につながり合っています。インターネットやモバイルだけではなく、交通や物流も含めて、これからさらにつながりが増し、サプライチェーンや労働力の網が、世界中に張り巡らされていきます。大企業だけでなく中小企業も、遠く離れた、例えばフィリピンにいる人を雇用し、働く人材を確保することができます。このような環境下ではビジネスの競合が世界のどこからでも現れる可能性があり、競合に先んじ、最初にスケールすることが非常に重要になります。
「ブリッツスケール」の正確な定義は、不確実な環境の中で、効率性よりスピードを重視することです。事業を迅速に拡大することを目的に、どこに資本を投下するか、どのような人々を雇うか、才能を配置するか、どのような顧客サービスを行うかなど、すべてを決めていきます。その過程では顧客獲得コストや一顧客当たりの経済性など不明のまま進めます。時にはビジネスモデルさえ完全にわからないこともあります。ウーバーやエアビーアンドビーはこのようにして生まれましたし、グーグルやフェイスブックも同様です。ブリッツスケールは私が創業に関わった会社だけでなく、フェイスブックやエアビーアンドビーといった会社に初期投資し、成長を間近で見てきたひとりとして、シリコンバレーで学んだことの「証言」なのです。
堀江:スタートアップの場合は毎日が火急の案件ばかりですが、ある程度大きくなった企業が直面する難しさは、維持すべきことと、急激に成長させなければならないことを両立させることではないでしょうか。アドバイスをお願いします。
ホフマン:「組織を2つのグループに分ける」と宣言することです。新しいビジネスや重要なR&Dを担う1つのグループは、従来の組織と根本的にまったく異なる論理やパラメーターの元で動きます。まさに崖から飛び降りるように、すべてが混乱のまま猛烈なスピードで進みます。本社指揮系統とは完全に切り離す必要があります。なぜなら、ルールがまったく異なるからです。企業を経営するというのは通常、顧客獲得やオペレーションをいかに効率化するか、いかに良質な顧客を維持するかということを考えますが、ブリッツスケールの環境下でこれらは難しい。素晴らしい顧客サービスは存在できません。同時に多くのことが起こっているので、単に不可能なのです。本気で投資しなければなりませんし、代償を伴います。