研究結果によると、米国立衛生研究所(NIH)からの多額の助成金を惜しくも逃した科学者は、かろうじて助成金を得た科学者よりも、その後の論文発表件数が多かった。研究論文の共同執筆者、ダシュン・ワン准教授(マネジメント・組織論)は、同大学院のウェブサイト「ケロッグ・インサイト」の記事で、「敗者の方が(長期的には)良い結果を残していた」と述べている。
研究によって出た結論は直感に反するものであり、「成功が成功を生む」という通念を真っ向から否定するものだ。ただ、起業家やクリエーティブな人々は以前から、失敗は自らの成功の基盤となったと主張してきた。
スティーブン・キングは著書『書くことについて』で「わが家の壁の釘は、それに突き刺さった不採用通知の束の重さにもはや耐えきれなかった。私は釘を犬釘に取り換え、書き続けた」と記している。犬釘はキングの努力の証だったのだ。
J・K・ローリングは2008年、ハーバード大学の卒業式で「失敗の二次的利点と、想像力の重要性」と題したスピーチをし、「どん底が、私の人生を再建する堅固な基礎となった」と語った。
アマゾンのジェフ・ベソス最高経営責任者(CEO)はたびたび、失敗がイノベーションにとって重要であり、失敗のないイノベーションは存在しないと語っている。2016年には株主向けの書簡で、「イノベーションには失敗がつきものだ。失敗はオプショナルではない。私たちはこれを理解しており、早期に失敗し、うまくいくまで反復することの重要性を信じている」と記した。そしてここにきて、この考え方が科学的な裏付けを得た。
ケロッグ経営大学院の研究チームは、科学者らの成功に影響を与えた可能性のある他の要素を全て消去した。例えば、影響力のある協力者との協働、より権威ある機関への移籍、研究テーマの変更、「ホットな」研究分野への移行などだ。しかしこうした要素は、補助金を惜しくも逃した「ニアミス」の科学者と、辛うじて得られた科学者の間の最終的な成功の差を説明するには不十分だった。科学者の成功に影響を与えた可能性をはっきり示す外的要因がないことから、研究チームは失敗が「ニアミス」の科学者に改善を促したのではないかと分析した。
共同執筆者のベンジャミン・F・ジョーンズ教授(戦略論)はケロッグ・インサイトに対し、「忍耐が大切だというアドバイスはよく言われることだが、失敗から何か大切なものを学べるということ、そして失敗をした方がよいという考え方は驚きであり、インスピレーションを与えてくれる」と述べている。