テクノロジー

2020.02.10 18:00

「一度、正反対に振る」非凡なアイデアを生む思考法、セブンセンス吉田拓巳

10代の頃から世の中をあっと言わせるサービスや演出を手掛けてきた吉田拓巳氏(写真=小田駿一)

10代の頃から世の中をあっと言わせるサービスや演出を手掛けてきた吉田拓巳氏(写真=小田駿一)

2011年、15歳でグラフィック・映像制作会社を設立し、「日本最年少社長」として名を馳せたセブンセンスの吉田拓巳代表。翌年、ネット上でお年玉がもらえるサービス「お年玉.me」を生み出し話題を呼んだ。

17歳の頃には、参政権のない10代がネットで疑似的に投票できるプラットフォーム「Teens opinion」を生み出し、坂本龍一氏や家入一真氏ら著名人が趣旨に共感して投票を呼び掛け、1日に数百万人が訪れるサイトになった。

DJ同様に映像を素材として音楽を表現するビジュアルジョッキー(VJ)としても活躍し、アーティストMINMIのライブでの映像演出も担当。2016年から2018年まで、東京・お台場で開催されている国民的ダンスミュージック・フェス「ULTRA JAPAN」でも映像演出をおこなう。

稀代のクリエイターといえる吉田氏は2020年を迎えた瞬間、シンガポールにいた。シンガポールのランドマークであるマリーナ・ベイで、日本の伝統花火と共に夜空を彩ったドローンのショーを手掛けていたのだ。

花火×ドローンのコラボで成功


エイベックスが手掛ける花火ショー「STAR ISLAND」(スターアイランド)の目玉演出。クリエイティブプロデューサー/ファウンダーの小橋賢児氏や総合演出の潤間大仁氏らとともに500機のドローンのショーを実現させ、世界から集まった50万人が熱狂した。CNNにも「世界的なカウントダウンの一つ」として取り上げられた。

ドローンはその機体が一つひとつの光となり、完全に電子制御されて夜空を飛び、光の集合体が空中でクジラや鳥、マーライオンなどのモチーフを立体的に描いた。何より花火やパフォーマンス、レーザーなどの演出を含む総合エンターテインメントショーとのコラボレーションは世界でも例をみないチャレンジで、現地では「これまでにない、初めての体験だ」「素晴らしいカウントダウン」と絶賛、スタンディングオベーションが起きていた。

ドローン 花火 STAR ISLAND
Shunichi Oda

「移動にはお金がかかる」常識を覆す新サービス


2018年には「移動の無料化」を目指す、株式会社nommoc(ノモック、本社:福岡県福岡市)を設立し代表に就任。電車やタクシーなどでの人の「移動」を無料にするというこれまでにない発想で、創業時の投資型クラウドファンディングでは4分半で5千万円の調達を成功させた。

タクシーやハイヤーの中で広告を流したり、企業が伝えたい情報や体験を提供することにより、利用者に無料で「移動」を提供することが可能だというnommoc。昨年12月には、ハーゲンダッツジャパンとコラボし、東京都内でハーゲンダッツのミニカップを8種類から選んで味わうことができる無料リムジンを提供、話題になった。

nommoc
nommoc提供

15歳で起業して以降、独特のクリエイティビティを発揮し、世間をあっと言わせるようなサービスやコンテンツを発表。飲食店などの空間プロデュースや、企業のブランディングも手がける。

編集部はシンガポールで吉田氏に取材し、その独特の思考法に迫った。

「人と違うことをやる」発想の原点


子供の頃から、遊びの延長でPCでグラフィックの映像を作って発表していたところ、徐々に「仕事」として発注が来るようになっていった吉田氏。

「好きなことが仕事になっていき、学校生活とは別に社会との接点ができてきました。人と一緒にチームで何かを生み出していくことによって、自分の力を超えて飛躍することができると感じました。じゃあ会社をおこしてみよう、と考えました」

当時国内最年少で起業。「何かひとつのことをやるための会社というより、自分たちが面白いと思うことを手掛けながら、敢えて時代にフィットしながら変容していける会社を目指しました」

映像をつくっていた学生時代から吉田氏が心掛けていたのは、「人と違うことをやっていく」ということだという。

「日本では誰かと違うことをするのは難しいと言われますが、人と違うことを選んでやっていく方がある意味得をすると気づきました。映像という好きなことが仕事になっていったり、学校に通っているだけでは会えない人に会えたりという経験を重ねることで、確信が増していきました」

ネット時代だからこそ、リアルな体験に価値がある


10代の頃からインターネットの世界で独自の活躍をしてきた吉田氏だが「インターネットが進化する流れの一方で、リアルな体験にこそより価値が生まれ、重要になってくる」と感じていたという。

「ネットでいつでもどこでも、欲しい情報に瞬時でアクセスできるようになったからこそ、『現場でしか体験できないこと』に大きな価値があるのではないかと考えるようになりました」

そこで会社設立3年目、「リアル」に舵を切った。「Teens opinion」などの活躍をきっかけにアーティストのMINMIから声がかかり、ライブの演出を手掛けるようになったのだ。

会場にきた客に映像や音源ではできない体験をしてもらおうと、ライブ空間に香りを発散したり、衣装と電飾をリンクさせたりと、五感に訴求する演出を手がけた。またライブでの客席からの写真撮影を解禁した。今では写真撮影を解禁するアーティストは珍しくないが、2013年当時はいずれも画期的な試みだった。

現場ならではの「体験価値」を追求


日本の伝統花火とレーザーライティング、3Dサウンドとパフォーマーたちのステージ、映像を組み合わせて圧倒的な没入感を生み出すエンターテインメント「STAR ISLAND」でも、吉田氏のクリエイティビティが光る。参加者全員に配布し、花火や音楽に連動してさまざまな色に輝く「LED BAND」を手掛けてきた。来場者も全体の光の演出の一部となることで、より一体感や没入感が高まる仕掛けである。

LED BAND STAR ISLAND
Shunichi Oda

さらにライブとしての「体験価値」を追求し、今回のシンガポールの「STAR ISLAND」ではドローンによるショーを手掛けた。1台1台の動きを完全にプログラムし、GPSを使って全体をフルでコントロール。全体として音楽や花火に合わせて自在に光り、立体的なモチーフが夜空に次々と浮かぶショーに歓声が上がった。

音楽とドローンを組み合わせたショーは世界でも事例がある。「ドローンの登場で花火はなくなるのではないか」といった言説もあるが、敢えて最先端のドローンと伝統花火と完璧に組み合わせたことで、誰も見たことのないショーを創り上げ、現地で絶賛された。

STAR ISLAND 花火 ドローン
Shunichi Oda

「STAR ISLANDは、エイベックスさんとみんなで『世界に進出できるコンテンツ』を念頭につくってきました。いま、あらゆるコンテンツがディスプレイ上で体感できるようになりましたが、逆に『この場に来ないと体感できないコンテンツ』を目指すことで、唯一のエンターテインメントになったと思います」
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文=林亜季、写真=小田駿一

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