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ニューヨーク在住ジャーナリスト / NYC-based Journalist

クレイトン・クリステンセン教授(2015年撮影)。2020年1月23日に死去。1997年に代表作『イノベーションのジレンマ』を発表(邦訳は2001年)、今なお読み継がれる経営学の名著。

米東部時間1月24日午後6時過ぎ、受信ボックスに飛び込んできたハーバード・ビジネス・レビュー誌のメルマガのタイトルを見て、一瞬、息が止まった。「Remembering Clayton Christensen(追悼クレイトン・クリステンセン)」とあったからだ。その日、クリステンセン教授が23日に白血病の治療による合併症で亡くなったことが、米メディアによって一斉に報じられた。

2015年春、筆者は、「破壊的イノベーション」の父として知られる同教授に初めて取材する機会に恵まれた。それはForbes JAPAN 2015年6月号にこんなタイトルで掲載された。「クリステンセン教授独占インタビュー『盛田昭夫“決断にデータ使わず”の理由』」。

だが、2017年4月号のゲームチェンジャー特集で2度目のインタビュー「消費者の『片付けるべき用事』にイノベーションのカギがある」を行ったときは、やや体調が悪そうで、「多忙すぎるのではないか」と、心配になったことを覚えている。とはいえ、薬を飲まれる際、少し中断しながらも、一つ一つ質問に丁寧に答えてくれる誠実さに感激したことを今も覚えている。

思えば2015年に1回目の取材申し込みをしたときは、申し込みからインタビューにこぎ着けるまで2カ月かかった。OKをもらったときは担当編集者と喜びをシェアし、念入りに質問などを打ち合わせ、緊張して取材に臨んだ。

クリステンセン教授の思い出として最も強く印象に残っているのが、取材申し込みを送ると返信されてくるフレンドリーでユーモアたっぷりのメールだった。世界中から殺到するであろうメールに逐一返答することなど不可能だからこそ、初回の問い合わせに対し、自動応答メールが設定されていた。そこには、「連絡してくださって光栄です!」など、感謝と気遣いの言葉が記されており、世界トップの経営学者とは思えない謙虚さと教授の人柄を感じたものだ。そのメールは、今も大切に取ってある。

今年も、「また、取材させてほしい」と書き添えた日本画の賀状を教授に送った。だが、たぶん、そのカードを読むことなく天国に旅立たれたクリステンセン教授──。同教授を偲び、イノベーションのあり方を追求する本誌ならではのインタビューを今一度、お届けしたい。

※この記事はForbes JAPAN 2015年6月号に掲載された独占インタビュー記事の再掲です。


──イノベーションを起こす組織をつくるために経営者が取るべき方策についてお聞かせください。

特効薬はありませんが、経営者が取るべき方策はいくつかあります。まず、こうしてはいけないという事例を、糖尿病の処方にたとえて説明します。

たとえば、2型糖尿病は、血液中のブドウ糖が一定数値を超えると罹患したと診断されます。そこで、医師は薬を処方し、正常値内に抑えようとします。しかし、血液中のブドウ糖の数値(血糖値)が高くなる原因は、2型糖尿病だけではありません。少なくとも12種類以上の病気が考えられます。つまり、数値を下げることで患者の病気を治そうとするのは、クレイジーなことなのです。血糖値は、体内で糖尿病が引き起こされる過程とは無関係です。薬は、数値を下げるためのものであり、患者の病気そのものを治すことにはならないのです。

まったく同じことが、企業の世界でも起こっています。企業の成長が止まると株価が下がり、投資家から、株価を戻すようプレッシャーがかかります。

経営者にとって最も手っ取り早いのは、自社株を買い戻し、1株当たりの利益を上げることです。でも、株価が上がったところで、成長が止まった原因とは何の関係もありません。一方、金融市場は株価を、「企業の業績を測る基準」として注視しています。

その結果、経営者も、根本的な原因が何かを把握することなく、数字のみにフォーカスするというわけです。

これは、北米や欧州、日本の企業に蔓延する問題です。経営者は、なぜ自社がイノベーションを必要とする状態に陥ったのか、その原因をどのような尺度に基づいて判断するか、決めねばなりません。

文=肥田美佐子 写真=エバン・カフカ

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