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2020.01.25 11:00

「祈りに応えたい」現代アーティスト小松美羽の作品が世界で人々の魂を揺さぶる理由


神話の共通性を探る「祈りの旅」へ

「断言はできないけれど、世界の神話には類似性があると思います」

例えば、北欧のトロール伝説。悪魔のような存在であったり、幸せを呼ぶ小人であったり、さまざまな伝承がある、変幻自在な妖精だ。そんなトロールが小さな子供を連れ去るという伝承は、「神隠し伝説」のようだ。

小松は、そんな神話について古い書物も読むが、その源泉となっている場所を実際に訪れるようにしている。昨年7月には、北欧神話を学ぼうと、ノルウェーやアイルランド、アイスランドを訪れた。その理由を問うと、小松はこう答えた。

「経験が足りないし、触れたいんです。そして、神話は過去の話ではなく、現在進行形で未来へ繋がっていくもの。神話が世界でどう根付いているのか、現地で探りたいのです」

そして現地で体感したことは、表現に落とし込んでいく。神話や伝説の発祥となった土地を巡ることで、「祈りと瞑想の旅」を続けているのだ。


台北の個展に出品した、1対の山犬さまの作品。じゃれあっているようだ。

年間で200作品。高速で生み出す理由

地元・長野に戻って集中して、スピーディに制作をするのが、小松のスタイルだ。チームによる海外展開の戦略のもと、昨年は1年間で約200の作品を手がけた。しかも大型の作品も多く、制作するのはきっと大変なことだろう。だが、小松はさらりとかわすのだ。

「戦略についてはチームを信頼してすべてお任せしています。その分、集中できるからこそ、たくさんの作品を生み出すことができるのです。大きな世界のステージを用意してくださるので、スピードアップをして制作を進めています。命っていつ尽きるか分からないし、元気なうちにこのスピードで描いて行きます」

さらに、「世界へ出て行くと、描いたことの100倍の感動が跳ね返ってくるんですよ」と付け加えた。

そしてこんなエピソードを教えてくれた。昨年、ベネチア国際映画祭でイタリアを訪れた時のこと。キュビズムの創始者ピカソや17世紀のオランダ絵画の巨匠レンブラントの作品も持つ、イタリア人アートコレクターが、小松の作品を気に入ってくれた。彼は「この作品を買いたい」と言うのではなく、「この作品をイタリアに、そして後世に残したいから、僕がこの作品を所蔵したいんだ」と言ったのだ。

「作品を大切に思ってくれている世界中の人々と繋がることができて、嬉しいですよね」


インタビューに答える小松美羽。身振り手振りで話し、笑顔が印象的だった。

高速回転しながら、魂のこもった数々の作品を生み出し続けている、小松の次なる目標は何か。

「目標はあえて立てません。だけど、人にはみな、役割があって天命があると思うのです。私自身は、純粋に描き続けることが求められていると思います。その役割に応えることが、自分の使命だと思います」

小松の持論では、「大人になること=純粋になること」だ。一見、相反することのように思えるが、小松は「それは、純粋になっていく大人を見ていないから」と語る。

小松はベストドレッサー賞(学術・文化部門)を受賞するなど、その美しさからファッション誌で取り上げられ、注目されることもある。そうした中でも、「人は容姿ではなく、肉体を外した魂の状態で、どう輝いているのかを注意深く観察し、敏感であるように心がけています。私は純粋になっていきたいです」と言ってのける。

彼女は、力むこともなく、しなやかにそう言うのだ。ただ、その瞳の奥には、「そうありたい」という強い信念のようなものを感じられる。

「人の魂を揺さぶり、成長して寄り添い続ける神獣を一生描きたいです。ぜひ私自身の魂の成長も、それに伴う私の作品の成長も見続けてほしいですね」


いまにも飛び出しそうな1対の狛犬と子狛犬。豊かな色合いで描かれた、大きな目玉が印象的だ。


こまつ・みわ◎1984年、長野県坂城町生まれ。女子美術大学短期大学時代に、銅版画の制作を始める。20歳で制作した銅版画「四十九日」をきっかけに、プロの画家へ。2014年に出雲大社に「新・風土記」を奉納。17年に台湾で初めての個展を開き、9日間で3万人以上が来場。著書『世界のなかで自分の役割を見つけること』(ダイヤモンド社)。

小松美羽、台湾での個展とライブペインティング密着取材の様子はこちらから。

文=督あかり 写真=Christian Tartarello

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